日別アーカイブ: 2010年12月29日

解熱剤賛否両論

「解熱剤」はゲネツザイと読みます。有名どころですが、お母さん方の2割くらいは「カイネツザイ」とおっしゃいます。

それはよいとして、ところで解熱剤を使ったことはありますか?

たまに熱で受診されたこどもさんに解熱剤を処方しようとすると、

「使わない方がいいんですよね?」とか、「解熱剤なんて使うもんじゃないとヨソ(他院)でいわれて、今まで使ったことがありません」とか、おっしゃるお母さんがおられます。

確かに臨床研究では解熱剤使用グループvs.非使用グループを比較したところ、最終的に解熱するまでの時間は非使用グループの方が数時間短かった、という結果があるようです。やはり「解熱剤を使用しない方が風邪のなおりは良い」という通説はうそではないと思います。

しかし「解熱剤を使用しない看病」は想像以上に大変です。やったこと、ありますか?

高熱のこどもは始終ぐずります。水分をとらせるにも一苦労です。しんどくて眠れずに、夜中じゅう何度も起きます。小さなこどもは明け方までずっと抱っこですごすはめになることも珍しくありません。高熱が一晩で終わればなんとか持ちこたえられますが、そんな保証はどこにもありません。あと何日続くかわからない看病は、息つぎ禁止の潜水に似てます。母も(看病は大抵の場合が母ですね)結構へとへとです。

解熱剤を使うと高熱が平熱になるわけではありませんが、少しだけでも解熱すればこどもたちはとても楽になるようです。水分をしっかり摂れるようになりますし、眠るにもぐずりません。脱水をふせぎ、体力を回復させて免疫力を保つには、やはり十分な水分摂取と睡眠は大切です。

そしてこどもがそうなることで、看病する者の体力と気力を保つこともできます。「高熱でしんどそうだけれど水分はとれる、眠れる」こどもの看病と、「高熱でしんどくてなかなか水分もとれない、ぐずって眠れない」こどもの看病は、母の精神的・肉体的負担を評価すれば、天と地ほどの差があります。

若かりし頃の私は「解熱剤は使わない方が治りが早い」ので「なるべく使わないように」説明する派でした。でも、自分が母となって看病する立場になってからは、解熱剤賛成派です。息子が保育園に行き出したころよく熱を出し、看病に奔走した日々があるからです。解熱剤を使用せずにはいられませんでしたから。治癒までのわずか数時間の差を期待して解熱剤使用を控えることは不可能でした。よく外来でも熱の続くこどもさんのお母さん方に「熱はいつごろおさまりそうですか?」と聞かれます。同じ質問を何度も自分の中で繰り返していました。(・・・そんなのわかるわけありません。)

しかしそうはいっても安易な使用はやはりダメです。「38.5℃以上の発熱があり、しんどそうな時」に使用してください。高熱があっても水分が十分に摂れ、眠れていれば解熱剤を使う必要はどこにもありません。たまに「夜中にふと寝ているこどもを触ったらすごく熱かったので解熱剤を使いました」というお母さんがおられますが、それはやめましょう。せっかく眠っているのなら、そっとしておいてあげましょう。

使用のタイミングですが、1日3回までという制限付きなので、高熱が持続している時は迷ってしまうと思います。

おすすめは、

朝のうちはなるべく使わずにごまかします。

1回目:11時くらい(少し下がったタイミングで水分をしっかりあげます。食べられそうなら消化の良い食べ物をすこしあげます。そのあとお昼寝を。)

2回目:18時くらい(1回目と同様。そのあと早々に寝かせます。)

3回目:夜中熱で起きてしまったら(とにかく寝かせることを目標に)

そして合間合間ですこしずつ水分を補給します。

 

解熱剤反対派は大抵男性の小児科医です。とくにご年配の先生が多いです。

大変失礼ながら、おそらくこどもの看病とは無縁に生きてこられたに違いないと私は思っています。

解熱剤は正しく使用すればこわいものではありません。使ってはいけないものでもありません。

「絶対に使用しない」と断言されるお母さんがたまにおられますが、もちろんそういう考えも否定はしません。でも私は親子ともに病気をうまく乗り越えてほしいと思っています。なるべく負担の少ない形で。

高熱のこどもが比較的楽そうな顔をしてすやすやと眠っている姿を見るたび、私はいつも解熱剤の存在に感謝してしまいます。安全な解熱剤のない時代は大変だったろうな、と思いをめぐらせます。これは小児科医としてではなく、ひとりの看病する母親として、身にしみて思うのです。