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2020年 「新型コロナ禍における大会中止によるモチベーションの維持や自主トレーニングの方法」 – Nクリニック 医師 中里 伸也 先生

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新型コロナ禍における大会中止によるモチベーションの維持や自主トレーニングの方法について、Nクリニック 院長 中里 伸也 先生にお話を伺いました。

中里先生、早速ですが大会中止や自宅での自主トレなどスポーツ選手にとっては、フィジカルのみならず、メンタルのモチベーション管理などいろいろ大変だと思いますが、スポーツドクターとしてのアドバイス等をお願いします。

全てのスポーツにおいて、自主トレ、自宅での自主トレであっても基礎トレーニングとしてランニングやウォーキング、あるいは自転車こぎなどの有酸素運動を継続して行うことが最も大切だと思います。有酸素運動により、心肺持久力を維持することが出来ます。また、有酸素運動を行うことによって全身に血流を届けることが出来ますので、団体、個人競技に限らず続ける方が良いと思います。

団体競技に限らず、選手が集まってやるトレーニングと自主トレを一人でやるのとでは、モチベーションの維持に大きな差があると思いますが、その辺りはいかがでしょうか。

自分一人でやっていると、モチベーションは保ちにくかったりすると思います。しかし、スマホやテレビ電話を使って他の選手の顔を見ながらお互いの意欲を刺激するのも一つの方法です。また、DVDやYoutubeなどの動画を見ながらテンションを上げていく方法もとれます。使える道具を工夫して、自分でテンションを高めていくのが大事だと思います。
例えば、動画にも自宅で行うトレーニングを有名なトップアスリートが紹介していたりします。同じ競技をやっているプロの選手が実際に行っているトレーニングは手本になると思います。若いアスリートは、SNSを積極的に活用して、そのような最高レベルのトレーニング方法を取り入れていると思います。ニュースでも良く取り上げられています。
一流の選手は、合理的なトレーニングを行っていますので、来るべき競技再開に備えて、今のうちに準備を進めていくことが大事だと思います。

外出自粛を続けると、我々一般人はストレスが溜まってきますが、運動によってストレスは減らせるのでしょうか。

スポーツ選手に限らず自宅に閉じこもっていると、ストレスが溜まっていくのですが、先ほど紹介した有酸素運動をすることによって、ストレスが解消されて行くと言われています。
運動をすることによって、メンタルに悪影響を与えるストレスホルモンは消費され、下記の物質が作られます。
まず、神経の栄養となる『BDNF脳由来神経栄養因子brain-derived neurotropic factor』、BDNFは認知症予防のカギを握るともいわれています。重度のアルツハイマー型認知症の患者の脳ではBDNFの発現量が減少してしまっています。年齢と共に減少するBDNFは年齢を問わず運動をすることで増やすことも可能です。BDNFは神経細胞の発生や成長、再生を促すだけではなく学習や記憶など脳の認知機能の向上など重要な役割を担っているタンパク質の一種で主に記憶を司る海馬や大脳皮質に多く含まれているのですが、このBDNFを効率よく増やすには、数ある運動の中でも体内にたくさんの酸素を送り込むウォーキングやジョギングやスイミングなどの有酸素運動が適しています。 また、自宅に引きこもっているとくよくよしたりいじいじしがちですが、意欲や気力につながる、やる気の元『ドーパミン』を増やす方法も良いのではないでしょうか。やる気満々の状態=ドーパミンが大量に分泌されている状態を作り出すためには体を動かす必要があります。ドーパミンは脳の側坐核から分泌されます。ドーパミンは行動しないと分泌されません。側坐核は実際に行動を起こしているときに活性化しますので、やる気を出したいならまず行動を起こすこと、動くこと。

なるほど、朝の散歩や軽いジョギングはドーパミンを分泌してやる気に満ち溢れた1日をスタートする習慣としては効果的なのですね。

その通りです。朝の運動は、その時のやる気を使い切るのではなく、1日のやる気を充電するわけです。まずは、朝10分でも15分でも良いですから散歩したり動くことが大事です。
さらにドーパミンを効果的に分泌させる良い方法をお教えしましょう。

① 目標設定をする

一定の目標設定をして、目標を達成したときに自分に対するご褒美を設定するとよいと言われています。人間は何かご褒美をもらうとドーパミンが大量に分泌されます。目標を達成したときに普段は買わない高級なチョコレートを食べるなどご褒美を決めておくと良いと思います。そうするとドーパミンが大量に分泌され、次なる目標設定への意欲がさらに湧いてくると思います。

②音楽を聴きながらトレーニングする

また、音楽もドーパミンを分泌させる効果があるとされています。最初に紹介した有酸素運動も、音楽を聴きながらやると一層効果的です。イヤホンで好きな音楽を聴いてわくわくしながらだと身体活動が活性化し、脳内からドーパミンが分泌されます。単調なトレーニングを飽きさせないだけではなく、直接的にもドーパミンを分泌させる刺激となります。また、プロの選手は、テーマソングに好きな曲を選び自らを奮い立たせる手段として使っています。大事な試合の前には、必ず集中して何度も聞いています。ゲンを担ぐと言われますが、良い結果を残した時の音楽をテーマソングにして、自分のテンションを上げる選手も多くいます。自分で好結果を残すための好循環を作っています。

③ イメージトレーニングをする

イメージトレーニングの中でも、瞑想や禅など心を穏やかにして祈ったり無心になったり落ち着いた状態に持っていくと、ドーパミンが放出されます。瞑想を行うとガンマ波と呼ばれる人間の認知活動にかかわる脳波の量が増加します。いわゆるZENと呼ばれる東洋の座禅をモデルとした瞑想法はこれを指します。特に瞑想を行う際に覚えておいて欲しいのが、4-7-8呼吸法です。瞑想を行っている際に4秒かけて息を吸い7秒間息を止め、8秒かけて息を吐きだす呼吸のリズムは鎮静剤のような働きを持つと言われています。 これを続けていると、心を落ち着ける副交感神経が優位になってきて、心拍数も低下していきます。特に吐くときにゆっくり吐くということを意識してください。試合の前にこれをやれば、リラックスした状態で臨むこともできるでしょう。瞑想中に試合のプレーをイメージするのも効果的だと言われています。

④ タンパク質が豊富な食べ物を摂取する

ドーパミンの生成原料は、タンパク質に含まれるアミノ酸の一種、フェニルアラニンやチロニンなどの栄養素です。タンパク質が豊富な食べ物をしっかり摂取すると、肉体的な疲れだけでなく精神的な疲れも軽減させることができます。チーズや鰹節、卵白、大豆、豆腐、おから、納豆などに含まれています。

BDNFやドーパミンの他にもストレスを低減させる物質がまだあります。
メンタルの安定につながる『セロトニン』、セロトニンは三大神経伝達物質の一つ(あと2つはドーパミンとノルアドレナリン)精神の安定に大きく影響を与える働きをしています。セロトニンが不足すると精神のバランスが崩れ、暴力的になったりうつ病を発生する原因ともなります。セロトニンはトリプトファンという物質から合成されます。トリプトファンが豊富に含まれている食品は豆、豆製品、乳製品です。さらにトリプトファンからセロトニンを合成するときにはビタミンB6が必要です。ビタミンB6を豊富に含むのは玄米や小麦麦芽、鶏のレバー、マグロや鰹の赤身です。セロトニンを分泌するのはセロトニン神経。セロトニン神経は日光を浴びること、適度な運動を行うことで活性化されます。朝食を抜かずよく噛むことで朝のセロトニン分泌を増やします。先ほど出ました朝家の外に出て行うジョギングや散歩はセロトニン分泌の助けにもなるわけです。

神経伝達物質の話をしましたので、ついでに予防やひらめきにつながる『アセチルコリン』について説明しましょう。アセチルコリンは最も早く同定された神経伝達物質です。サッカーなど展開の早い競技はひらめきが重要と言われたりしますが、アセチルコリンが少なくなるとそういうひらめきなどの脳の働きが低下すると言われています。また、アセチルコリンが不足すると記憶力の低下や物忘れの原因にもなります。アセチルコリンの合成に欠かせないのがレシチンです。レシチンの不足はアセチルコリンの不足になり情報の伝達がうまくいかなくなります。レシチンは細胞膜の主な成分で学習、記憶、睡眠、脂質の代謝、肝臓の保護などの役割があります。コリンを多く含む食べ物は鶏卵の黄身、大豆製品など、ブドウ糖もアセチルコリンの材料になります。チョコレートや主食のコメにも多く炭水化物がありブドウ糖が多く含まれています。適度な炭水化物も必要なのです。

また、快感や集中力をもたらす『エンドルフィン』があります。エンドルフィンは脂っぽいものや甘いものを食べすぎたりしても分泌がされるのですが、それでは体に対する毒にもなってしまいます。スムージーや魚など健康的な食事を集中して採るようにすると身体にも脳にも良いエンドルフィンの分泌を可能にします。
どんな栄養素、食べ物にも言えることですが、バランスよく摂取することが大切です。

さて、多くの選手が競技大会の中止、延期によって目標を失って苦労されていると思いますが、その辺りの影響はいかがですか。

大会という具体的な目標がないことによってドーパミンの分泌がされにくくなり、運動への意欲は低下してしまいます。試合があると勝つことや、予選を勝ち抜く、優勝を狙うなど、目標設定が自然に出来ます。しかし、試合が無いとそう言った目標を設定することができません。そこで、大会ではなくとも、同じくらい気分が盛り上がる目標を工夫して作ってみるのはいかがでしょう。

簡単にまとめさせていただきますと、目標設定、ユーチューブなどを活用しての自主トレの工夫、音楽、瞑想、栄養、このあたりをヒントにして来るべき競技再開に準備をするということですね。
最後に、コロナ対策として感染予防にマスクを着用した状態でのトレーニングが必要になるかもしれませんが、マスク着用のリスクと注意点をお願いします。

マスクをしながらトレーニングをせざるを得ない状況になったら、その際には注意が必要です。
気温が上昇し湿度が高くなる暑熱環境下でマスクを着用しながら運動すると、口腔内の湿度が保たれやすくなり、実際には水分補給が必要なのにのどの渇きに感じないということが起こります。そうなると身体から水分や電解質が失われながらも適切なタイミングで水分補給ができず熱中症を発症するリスクが高くなりかねません。マスクの着用の有無にかかわらず運動中はのどの渇きを感じる前に水分を摂取してこまめな水分補給を心がけること。できるだけ水ではなく糖分や電解質を含んだスポーツドリンクがお勧めです。またマスクを着用することで呼吸による熱解放の能力が低下する恐れがあります。つまり、水分が失われがちで、熱がこもりやすくなり、さらに熱中症を発症するリスクが高くなります。マスクを着用しながら有酸素運動をすると肺に空気を取り込みづらくなり必要な酸素を取り込むために呼吸筋(横隔膜や外肋間筋)が強く働かねばならず必然的に息苦しくなります。逆にマスク着用下でトレーニングすると鍛えられるが、取った時にめまいや立ち眩みが出る可能性もあります。いつもより強度を落としてこまめに水分補給をすることを勧めます。マスクを着用しないで運動するときには周囲の人との距離をとることなど、十分注意をしながらトレーニングしてください。

コロナ禍での様々な制約がある中、先生のお話はスポーツ選手だけでなく私たちにとっても心強いアドバイスになります。具体的な方法など直ぐに取り入れられることも多いと思います。大変参考になりました。
ありがとうございました。

お話を伺った先生:中里 伸也 先生(Nクリニック・大阪府岸和田市)

【略歴】

  • 平成5年 和歌山県立医科大学卒
  • 卒業後 大阪大学整形外科学教室入局
  • 大阪厚生年金病院、大阪労災病院、関目病院、アメリカミネソタ州ミネアポリス・スポーツメディカルセンター、泉大津市立病院、阪南中央病院にて、整形外科・スポーツ医学を学び、平成13年喜多病院(現岸和田盈進会病院)に整形外科・スポーツ整形外科を立ち上げる。
  • 平成15年 同病院に南大阪スポーツ医学&リハビリテーションセンターを立ち上げセンター長に就任
  • 平成21年 Nクリニック開院

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