今回のドクターインタビューは、「心の風邪」と言われる「うつ病(鬱病)」について、岡クリニックの院長 岡 達治 先生にお伺いします。
そうですね、確かに「憂うつな気分」は誰でも体験しますし、それに圧倒されてしまうのでなければ、 正常な心の働きのひとつであると言うことができます。
憂うつになったとしても、友人や家族に相談して、気持ちをリフレッシュする機会があれば乗り越えることができます。
しかしあまりにも感情に圧倒され振り回されるようになると、立ち直れないほど気分が沈みこみ、何も考えられなくなり、 全く意欲がなくなり、自分を責める気持ちが高まり、睡眠も十分にとれなくなってきます。
このような状態でもっと頑張ろうとすると、ますますこれらの症状が増幅し悪循環に陥って心のエネルギーは枯渇してしまいます。
このようにすっかり「心のエネルギーが枯渇した状態」がうつ病であると考えてよいと思います。
ということは誰でもなりうる病気なのですね。
その通りです。特に「執着気質」と言って、真面目で律儀、完全主義で責任感が強い、 何でも抱え込んでしまう性格の方は、先ほど述べましたような悪循環に陥りやすいので、うつ病になりやすいと言われています。
躁うつ病とうつ病は違うのでしょうか?
躁うつ病は、躁状態とうつ状態を反復する病気ですが、ストレスが原因ではなく生理的・体質的要因から起きる病気であるという違いがあります。
うつ状態の現れ方は同じですが、病気の性質が異なりますので、専門家の正しい診断が必要です。
実際に診療にいらっしゃる方がここ10年で明らかに増加しています。病気になる方が増えている、受診される方が増えている、という二つの側面があります。
まずうつ病を患う方が増えていることですが、社会構造の変化が関係していると思います。右肩あがりの成長を期待する時代から、言葉は悪いですが限られたパイを奪い合うような風潮への変化です。努力がなかなか報われず閉塞感が強まり、自分自身に価値を見出しにくくなっています。これは現代社会が病気を増加させているというマイナスの側面です。
次に受診される方が増えていることですが、メンタルヘルスに対して関心が高まり、精神医療に対する偏見が減少したことで、軽症の段階で早めに私共のような外来クリニックを受診される方が増えていると思います。症状がこじれていませんから、治療も比較的容易になります。これは早期治療が可能になったというプラスの側面です。
時代の影響を受けているということですね。
まさにその通りです。ストレス要因が強く関与しているうつ病が増加しています。
統計的には10%前後の有病率があると言われています。そのデータが正しいとすれば、今日の外来受診数と比較して、まだ受診に至っていない方が非常に多いということになります。
はい。うつ病が重症化すると、自責感・絶望感にさいなまれ、もう死ぬしかないというところまで追い詰められてしまいます。診療していますと、そのように考えたことがあるとおっしゃる方はかなりおられます。
自殺した多くの方はうつ状態であったと考えられます。適切な治療を受けていれば、かなり防止できたのではないかと思うと残念でなりません。
二つの大きな柱があります。
一つは薬物療法です。抗うつ薬を服用します。現在はSSRI、SNRIというカテゴリーの薬剤が主に使用されています。うつ病は「心のエネルギーが枯渇した状態」なのですが、これらの薬剤は中枢神経に働きかけて、エネルギーの回復をサポートします。ただし効果が出るまで少なくとも2週間は必要ですから、根気強く服用することが大切です。無理やり人間を鼓舞して元気を出させる薬ではなく、心身の休養をサポートしダムに水が貯まるように心のエネルギーを回復させる作用があると考えるとよいでしょう。
もう一つは休養です。心のエネルギーの枯渇には休養に勝るものはありません。うつ病になるとどうしてもストレス状況が頭から離れなくなり閉塞状況に陥りますが、医師の助言をお聞きになって、例えば残業を減らし休日は完全にオフにするようにして、それでも悪循環から抜けられないなら、暫く休養を取られることをお勧めします。その場合にはほとんどの場合診断書が必要になりますから、受診先の医療機関に相談してみて下さい。
最近、治療薬のリタリンが薬物中毒を引き起こすことが問題になっていますが?
リタリンは中枢刺激薬で、ナルコレプシーという特別な睡眠障害の治療薬でそれには著効しますが、 うつ病治療に使用すると、覚せい剤と類似の薬理作用、つまりエネルギーが枯渇した状態からさらにエネルギーを搾り取るような薬理作用を引き起こします。
効果は一時的なのでさらに薬剤を必要とする薬物依存状態に陥ってしまいます。
もちろん心のエネルギーの回復はもたらされませんので、これまで述べたような療養方針とは相容れない薬剤です。
【参考】向精神薬「リタリン」、適応症からうつ病除外へ(2007年9月21日 読売新聞)
やはりリスクがあるとお考え下さい。社会復帰は非常に重要な問題です。治療を受けて改善しても、それは決してもとのペースで頑張れるということを意味するのではありません。勤務先とよく相談されて、勤務内容を見直されることをお勧めします。
また、復帰に際しては例えば時間短縮などのリハビリ出勤の時期を持つことが必要です。幸いここ数年でリハビリ出勤はかなり一般的になりましたので、率直に勤務先に相談されるとよいと思います。
抗うつ薬を継続して服用することも重要です。抗うつ薬は確実に再発を予防します。症状が改善したからといって、服薬をすぐにやめたり減らしたりするのではなく、「症状の改善に二歩遅れて調整する」のがちょうど良いと、いつもご説明しています。
これまでお話ししたような「心のエネルギーが枯渇した状態」は、薬物療法と休養で必ず改善します。その意味では必ず治ります。
ただ生きていく上での葛藤、例えば親子や夫婦の心理的葛藤があったり、執着気質とは別の心理的問題を抱えておられて抑うつ状態になっておられる方は、薬物療法と休養だけでは限界があり、人生の課題としてそれらを少しずつ解決していくことが治癒に結びつきます。このような場合には必ず治るとまでは言えません。
いずれにいたしましても、まずは専門家にご相談下さい。
――本日はどうもありがとうございました。(2007.10.22)
お話を伺った先生:岡 達治先生(岡クリニック・大阪府茨木市)
http://okaclinic.net/
https://www.ddmap.jp/0726233663
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