日別アーカイブ: 2020年9月4日

脂肪肝はこわいですよ。

むかしは肝臓病といいますと、肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎やお酒の飲み過ぎによるアルコール性肝障害が第一でしたが、最近ウイルスやアルコールが原因とならない、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増加してきています。それらは、進行すると肝硬変や肝がんになる恐れもあります。


私は以前、肝臓外科医として、肝臓の悪性腫瘍と長年向き合っておりましたが、近年はNAFLD由来の肝臓がんの方が増加してきており、ウイルス性やアルコール性肝障害がベースにある方と異なり、病気として認識されていない方が突如肝がんに見舞われる感じがあって、スクリーニングをするのが大変になってくるなと感じていました。
後から述べますが、脂肪肝の患者数は大変おおく(人口の30%以上)、その全体を肝がん予防として調査するのは大変なことになってしまいます。やはり、脂肪肝にならないことが重要で、脂肪肝を予防することがカギになると考えます。
さて、「脂肪肝」という言葉は多くの方に知られていますが、原因のひとつは飲酒による脂肪肝です。これに対し、お酒を飲まないのに発症する脂肪肝を非アルコール性脂肪肝とよびます。
生活習慣の乱れや内臓肥満、ストレス、昼夜逆転の仕事などが原因で脂肪肝が生じます。そうなると、顕微鏡で見た場合に、肝細胞のなかに油の粒が溜まってきます。
この段階ではまだ肝臓の細胞の多くは壊れていません。しかし、非アルコール性脂肪肝を放っておくと、だんだん肝臓の中の環境が悪くなり、肝細胞が風船のように膨らんで、細胞は壊れてしまいます(風船化)。働かなくなった肝細胞を片付けるために肝臓で炎症が起こり、それが長い時間続くことによって肝臓が硬くなる、線維化という現象が起きることがあります。これが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。
現在、国内での正確な患者数はわかっていませんが、人間ドックを受ける人で非アルコール性脂肪肝に罹患している人が30~40%であることから、推定で1000万~2000万人の潜在患者がいると考えられています。非アルコール性脂肪肝炎に進展するのはそのうちの10~20%に相当する100~200万人位と考えられています。
非アルコール性脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎を発症し、進行すると肝臓の細胞が長い時間壊れ続け、次第に線維化を起こし肝臓はだんだん硬くなっていきます。さらにこれを放置すると、10年後には約1~2割が肝硬変になります。肝硬変にまで進行すると年率で数%に肝がんが発生すると言われています。
障害を受けた肝細胞をもとに肝臓がんが発生するわけですので、この100~200万人が少なくとも肝がんの予備軍となるわけです。これは大変なことですね。
メタボリック症候群があからさまにがんと直結する例といっても過言ではないでしょう。これは、軽視できない事態であると思います。

メタボ肝臓病である脂肪肝は、もちろんほかのメタボ疾患と強力に結びついており、糖尿病や高血圧症、脂質異常症等といった生活習慣病や脳梗塞や心筋梗塞の原因と言える動脈硬化とも強い関連があります。
まずは糖尿病との関連ですが、非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪肝炎は血糖値の異常や2型糖尿病と強い関連があります。
人間ドックで空腹時の血糖が110 mg/dL以上の受診者のおよそ半数が、さらに空腹時血糖が126 mg/dL以上の受診者の68%が非アルコール性脂肪性肝疾患を有していたと報告されています。
また非アルコール性脂肪性肝疾患での糖尿病の有病率は47.3%で、糖尿病患者は肝硬変するリスクが何もない患者に比べて2.4倍高いと報告されています。


高血圧症の場合ですが、非アルコール性脂肪性肝疾患における高血圧症の合併頻度は、約30~50%で、動脈硬化や心臓病のリスクであり、相互にリスク関係が存在するといわれています。
やはり脂肪ですので、脂質異常症とは当然のように深い関係があります。
高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高中性脂肪血症などを総じて脂質異常症と言いますが、脂質異常症は非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪肝炎の有病率を上昇させることが知られています。

非アルコール性脂肪性肝疾患における脂質異常症の合併頻度は、約50%と報告されています。人間ドックを対象とした過去の報告では、高LDLコレステロール血症を有する受診者の38.5%が非アルコール性脂肪性肝疾患を合併し(正常者では26.4%)、低HDLコレステロール血症を有する受診者の61.7%(正常者では27.3%)、高中性脂肪血症を有する受診者の59.5%(正常者では22.8%)が非アルコール性脂肪性肝疾患を合併しています。
脂肪肝を診断するには、血液検査では非常に困難です。

 

きっかけとしては
1)自分のおなかの周り(腹囲)をはかる
男性ではウエストが85センチ以上、女性は95センチ以上の場合、脂肪肝を持っている人が半数以上となります。10kg以上増えているという方も要注意です。
2)糖尿病、高血圧、脂質異常症がある場合

となりますが、最終的な診断は腹部超音波検査で肝臓を調べることになります。腹部超音波検査を行いますと脂肪肝がある場合は肝臓がたまった脂肪によって輝いて見えます。また、隣の腎臓と輝きを比較して判断します。同時に、肝臓の形態の変化や、腫瘍を伴っていないかも被爆することなしに調べられて大変簡単でよい診断法であると思います。

治療としてまず挙げられるのは生活改善でしょう。


とくに、食習慣や運動、睡眠などを改善する必要があります。食事はバランスよく、一日の総摂取カロリーを適正に保つことが有効です。極端な炭水化物制限食や脂肪制限食などの効果は分かっていません。食事運動療法で7%痩せれば、非アルコール性脂肪肝炎は改善するという報告があります。また、10%の減量で、肝臓の線維化も改善すると報告されています。
運動は1週間に150分以上が望ましいとされていますが、1日10分でもいいので、体を余計に動かすことです。筋肉は第2の肝臓と言われ、筋肉が増えると代謝がよくなります。


運動は、軽く汗をかく程度の有酸素運動がよいと言われていますが、レジスタンス運動と言って、じっくり筋肉を鍛える運動(スクワットやもも上げなどの「筋トレ」)も効果があると言われています。腰や膝が痛いひとは、椅子に座って上半身だけの体操でも効果があります。
食事は、過剰な糖質や脂肪分の摂取を控えましょう。ジュースや清涼飲料水のとりすぎはもちろん、ビタミンの摂取に良いと思ってついつい食べ過ぎてしまう果物も果糖の過剰摂取につながりますので注意します。一方では、緑黄色野菜はビタミンやミネラルの摂取のためにたくさん食べるようにしたいものです。
また食物繊維も十分に摂るように心がけましょう。食物繊維は、満腹感を助け、トータルの食事カロリー摂取量を減らすだけでなく、摂取した糖質の腸管からの吸収を緩やかにする働きがあり、肝臓への負担を減らしますのでオススメです。
そうはいうものの、食事療法や生活改善は大変苦しいもので、なかなか長続きしないのも現実にある問題です。そのばあいどうしても薬物に頼って問うことになります。

薬物療法として、例えば糖尿病や脂質異常症、高血圧症合併がある場合は、それらの基礎疾患に対する治療薬で非アルコール性脂肪性肝疾患にも効果が期待されているものがあります。基礎疾患がなければビタミンE(抗酸化剤)も期待できます。
また、非アルコール性脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎そのものへの治療薬は、肝臓の炎症や線維化(硬くなる)を抑える薬などが我が国をはじめ世界中で現在開発が進められていますが、現時点では実際に効果が認められた特効薬はありません。
薬物療法を選択する場合でも、生活習慣の改善なしで取り組んでもなかなかいい結果が出ませんので、どちらも車の両輪として考えていただきたいと思います。
意外に顧みられていない様子の脂肪肝ですが、結構怖いですよ。地域の健康を担う開業医としては、皆さんに積極的に健康診断や特定健康診査を受けていただき、早め早めに危険の目を積んでいただきたいです。