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ながびく咳にお困りではありませんか

ながびく咳について~パート1~

コロナウイルスによるパンデミックのもとの生活している2021年の私たちにとって、呼吸器感染症は大変気がかりな症候群の筆頭に上がってきます。
一般に長引く咳は大まかに3つに分類されています。急性の感染症に伴う咳はおおむね3週間以内に解決するので(例外的に百日咳は3週間以上続くことがあります。)3週間以上継続し8週間以内のものを遷延性咳嗽(がいそう)と呼ぶことになっています。それより長く継続するものは慢性咳嗽と定義されています。
一般的な風邪などのいわゆる上気道感染は3週間以内に咳嗽が軽快すること、遷延性咳嗽の大半は感染性疾患(ウイルスや細菌による上気道の感染)に原因があること、8週間以上つづく慢性咳嗽の理由として感染症の占める割合は数%以下であることから、遷延性咳嗽に分類される咳は感染性疾患由来と考えてよいものです。つまり、慢性になればなるほど、感染症が原因であることは少なくなります。
慢性・遷延性咳嗽は本邦では全人口の6%が罹患するといわれています。リスクの因子としては肥満、降圧薬服用、胃食道逆流症、喫煙などがあげられており、特に喫煙に関しては現在、過去の喫煙をとわず慢性的な咳嗽の発症を3倍に上げることが報告されています。
海外の受診率は85%以上と高いのですが、本邦では40%以下と低率で、そのほとんどが治療に反応したり禁煙で治療可能なものと考えられるために、長引く咳の患者さんにいかに受診してもらうかが重要となっています。
ながびく乾性咳嗽(からぜき)の理由としては咳喘息、あとぴ^咳嗽、逆流性食道炎などの頻度が高く認められます。
ながびく湿性咳嗽(湿った咳)の理由としては、副鼻腔気管支症候群や喫煙が多く見られます。
百日咳感染後の咳嗽は長引く咳嗽の10%程度に認められます。
長引く咳の患者さんが来院された場合の検査としては、まず胸部レントゲン撮影があげられます。血液検査、痰の検査、呼吸機能検査などを施行します。
さきほど例に挙げたような疾患群が原因となるもので、診断がついた時点で原因疾患を治療します。なかには鑑別が付きにくい状況も存在し、気管支拡張薬やステロイド吸入薬を使用しながら診断する(診断的治療)こともあります。
咳が強いということで来院される患者さんは大変多いようにおもいます。強い咳が継続することで、つらいこともさることながら
癌などの器質的疾患を心配されて来院する方も多数おられます。
一般的に呼吸器感染症の後の咳嗽は3から4週間までは不自然ではないので、感染が先行している場合や軽快傾向のある場合は必要に応じて対症療法や検査をしながら経過観察していきます。
3から4週間の中でも咳嗽がまだまだピークアウトしていない場合は定型的肺炎、非定形肺炎、結核、ガンなどの感染症以外の拝病変を考慮して精査加療します。
肺炎のばあい、定型肺炎(細菌性肺炎)と非定型肺炎が存在します。
1) 急性の咳
急性の咳のほとんどは上気道感染です。基本的に3週間以上続くことはなく、特に8週間以上継続することは極めてまれで、その場合は単純な上気道感染(いわゆるかぜ症候群)以外も考慮して鑑別する必要があります。
a) 急性上気道炎、急性気管支炎
急性咳嗽の大半の原因を占める。80%以上ライノウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルスなどのウイルス性疾患である。急性気管支炎も同じ。時にマイコプラズマ、クラミジア、百日咳菌などが原因となる。
急性上気道炎は鼻水、咽頭痛をともない、通常咳は1週間以内に収まります。発熱はないこともあります。
急性気管支炎は発熱することが多く、咳や痰が長引くことも稀ではありません。
急性上気道炎の治療はウイルスが原因のため対症療法です。抗生物質の投与は高熱の持続、膿性の痰や鼻汁、扁桃の腫大・膿栓・白苔、中耳炎、副鼻腔炎の合併の際に考慮されます。
急性気管支炎も同様であるが、これも必要に応じて抗生剤を投与する。
b)マイコプラズマ
マイコプラズマは肺炎だけでなく、上気道炎・気管支炎の原因となります。潜伏期間は1から2週間で感染の初期は乾いた咳です。
3から4週で湿った咳になります。マイコプラズマのみで咳が8週間以上続くことはまれで、その場合には喘息などの別の疾患を併発していることを考えなければなりません。
早期診断は困難で2回間隔をあけて抗体価を測定して判断します(ペア血清)。咽頭ぬぐい液の抗原検査でも診断できるようになっています。
c)クラミジア
おもに肺炎を引き起こすが、上気道炎や気管支炎の原因菌にもなります。マイコプラズマより発熱症状は軽いことが多いです。こちらも診断はペア血清の検査が必要です。
d)百日咳
最近成人への感染が増えてきている感染症です。臨床的診断としては14日以上続く咳で、発作性の咳き込み、吸気性笛声、咳き込み後の嘔吐のいずれかがあれば診断できます。発症後4週間以上たっている場合は百日咳毒素IgG抗体を測定して判断できます。
b、c、dの治療は抗生物質(マクロライド系)によって行います。
e)細菌性肺炎
咳嗽以外にも発熱、膿性痰、全身倦怠感、食欲低下、胸痛など強めの症状を見せることが多いです。細菌の薬剤感受性が喀痰から調べることができればより的確な抗生物質の選択につながります。
喀痰検査をお願いします。
d)結核
長期にわたる咳や抗生物質が効かない場合、微熱が続く場合などに鑑別する必要があります。胸部レントゲン検査や喀痰検査が必要です。昔のようにツベルクリン反応を見ることはいまではありません。血液検査(T-spot)を行います。喀痰検査にて結核菌の背筋を認めた場合は結核病床がある施設への入院が必要になります。
2) 喘息・咳喘息による咳
喘息は発作性の呼吸困難を示し、咳やゼイゼイ音(喘鳴)が夜間や早朝に多く現れます。症状は自然に解消するか、治療によって解消するのが特徴です。痰や血液中の好酸球(白血球の種類のひとつ)の増加などが検査初見として見られます。呼吸機能の把握として呼吸機能検査(スパイロメトリー)などもよく行われます。
治療としては軽症の最初の段階から低用量の吸入ステロイドを用います。喘息の主体が末梢気道の持続的炎症であるので、それによる気道障害と引き続いて起こる気道構造の変形(リモデリング)を抑えることが重要です。
咳喘息は呼吸困難が伴わない咳だけが存在する、気管支ぜんそくの亜系です。呼吸機能は問題ないことが多く、気道の過敏性が軽度亢進している状態です。
咳は気管支喘息とよく似ており、夜間や早朝に見られます。季節性もあり、日によっても差があります。子供の場合は男児に、成人では女性に多く、風邪や、冷気、運動、天候、花粉、黄砂によって引き起こされます。確定診断は症状から行われることが多く、3週間以上続く喘鳴のない咳があって、気管支拡張剤が有効であることから行われます。
治療法は気管支喘息と同じで吸入ステロイドを用います。咳喘息の3割が典型的な喘息に移行するといわれており、きちんと治療することが望ましいと考えられています。
3)胃食道逆流症(GERD)
基本的には消化器疾患なので、胸やけ、つかえ感、苦みのある液体がのどまで上がってくる、げっぷ、腹が張るなどが主要な症状ではあるが、咳や声がれが主たる症状となって咳の治療ばかり行われてしまうことも結構あります。慢性的な咳の患者さんの多くはGERDをともなっているとの報告もあります。GERDは大変多彩な臨床症状をしめしますのでの詳細に関してはあらためて別に記載しようと思います。
50歳前後の女性に多く、背骨の変形、肥満、刺激物や酸の強い食物の摂取、あんこなどのこってりした甘みの摂取、アルコール、コーヒーなどの摂取にも影響を受けます。
そのほか、腹圧のかかる状態(便秘、衣類の締め付け、妊娠など)やストレス、喫煙、就寝前の食事、食べすぎも原因となります。発症機序によって、立位や覚醒時に咳が多く食道症状が少ないものや夜間横になってから咳がひどくなるものがあります。
GERDは咳を誘発し、咳はGERDを誘発します。悪循環を示します。
GERDによる咳はほかの慢性咳嗽の疾患とよく似ており、また併存することも多く、症状から疑えば検査結果を待たずに治療を開始(診断的治療)します。検査は上部消化管の形態や機能を見ることになるので胃カメラや食道内のpHモニタリングを行うことが望ましいですが、検査負担を考慮すると現実的ではないので
診断的治療が推奨されています。
診断的治療が選択されることが多いので、診断としては胃酸を抑制するPPIやH2ブロッカーという抗潰瘍薬の使用が先行し、それによって軽快する場合をGERDと診断しますが、一般的に軽快するまでに時間がかかることも多く、注意深く観察することが必要です。また、問診による診断も有用で当院でもFスケールという問診票を活用しております。
のどの違和感の強い場合は耳鼻科による診察が有効なこともあります。
生活上の注意としては、就寝前3時間の飲食を避けること、就寝中は頭を高くして寝ること、コーヒー・喫煙・アルコール・緑茶・香辛料・甘み・酸味を避けること、高脂肪食(胃からの食物の排出を遅らせるので)制限、腹圧の上昇を回避、ストレス回避、少量の牛乳を頻繁に飲むなどがあげられます。
4)副鼻腔炎・副鼻腔気管支症候群による咳
以前にアレルギー疾患にかかっていたり、家族にアレルギー疾患の方がいない場合、3週間以上継続する咳がある場合に最も疑われる疾患です。副鼻腔炎の患者の80%に後鼻漏(のどに鼻汁が垂れ込む)があり、その3から40%に咳がみられるとの報告もあります。副鼻腔気管支症候群は慢性的に上気道と下気道に白血球(好中球)による炎症を生じることです。副鼻腔炎に慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性細気管支炎などの疾患が合併した状況と考えられています。慢性的な気道の炎症で生じた痰による刺激が咳の誘因となると考えられます。


コロナ下ですが花粉症治療について、漢方薬の応用を考える

こんにちは。気温のアップダウンが大きくてついていくのが大変な毎日ですね。
スギ花粉症の方にはそろそろつらい日が始まっていると思います。
院長もスギ、ヒノキの花粉症です。思い返せば学生のころから春になるといつも風邪をひいていると思っていました。本当の風邪もあったのでしょうが、その時から花粉症だったのでしょう。
学校が京都でしたので、北のほうには有名な北山杉がたくさん植わっており、たくさんの花粉が毎年供給される環境でした。
本格的に困ってきたのは、仕事を始めてからで、外科医でしたから長時間手をあらったまま鼻もかめずにマスクの中がずるずるになった日々でした。さすがになんとかしないとということになり、同僚に見てもらうと
『そりゃ、おまえ、花粉症やで』
と一蹴されてしまい、なんだかショックだったのを覚えています。その当時はまだ、抗アレルギー薬も今のようにいいのがなくて、飲むととても眠くなりました。
手術中も眠くて眠くて本当に困っていました。眠いか、鼻水垂れるか。どっちをとるかでした。
しばらくして、眠くならないのが【売り】の抗アレルギー剤が出てきましたのでさっそく試しましたが、やっぱりほのかに眠たかったですね。それと、最盛期には全く効かないので、ステロイドを飲んだり、点眼点鼻したり、必死でごまかしていました。
春になると外出を可能な限り控えて(院長はスギヒノキなので5月まで出られませんでした)、外出しなければならないときは、ゴーグルとマスクを装備し、服装はナイロン系の花粉が付着してもすぐ叩き落とせるような素材にし、ぼうしも必需品でした。
花粉症のひどい仲間のうちでは当たり前の装備でしたが、一般にはかなり奇異の目でみられてちょっと辛かったです。
室内でも強力な空気清浄機を何台もそろえ、ポータブル用の清浄機も持っていました。


そんなつらい日々の中、あきらめの中で、同僚が
『漢方薬ええで、ねむくならへんよ』
と教えてくれたのを、半信半疑で、しかし藁にも縋る思いでためしてみることにしたのです。
最初に試したのは【小青龍湯】でした。薬局でも最もポピュラーな、そして花粉症の時期には在庫が少なくなる漢方薬です。今でこそ、風邪治療にも頻繁に使用する優れものの認識を院長も持っていますが、その当時のまったく知識のなかった院長は、必死に覚悟を決めて飲んでみました。
不思議でした。なんかとても後味がすっぱい(生薬 五味子のせいです)変な感じでしたが、鼻水が止まりました。本当にびっくりしました。なによりも、眠くならずに一日が過ごせて本当に良かったと思いました。
それ以来、漢方薬のいい利用法を追求するため、勉強し、自分を使って実験し知見をためてまいりました。
アレルギー治療の世界には、減感作療法という奥の手があります。簡単にいえば、アレルギーのもとに徐々に触れていくことで、アレルギーのもとに対する感受性を鈍くしていく方法で、根本的な治療であるといえます。ただし、その人にとって危険なアレルギー物質を投与するわけで、アナフィラキシーなど過敏反応を引き起こす可能性はあり、誰にでもできる方法ではありません。少なくとも、アレルギー専門医ではない院長にはハードルが高い医療です。
それ以外の花粉症治療薬は、基本的にはヒスタミンというアレルギーを起こす物質の受容体(細胞の膜についているヒスタミンとつながることでアレルギーのスイッチを入れるトリガーのようなもの)をブロックすることが、その薬理作用で、漢方薬が行っている鼻水を止める、咳を止める、鼻詰まりを解消する、目のかゆみを止めるということよりは根本に近いかもしれませんが、減感作療法よりは対症的です。
そして何よりも、これは自分の感覚なので、個人差は多いとも思いますが、花粉飛散の極期には無力であるという事実が、自分的にはあります。あまりのつらさに極量服用も試みたこともありますが、もうどうにもなりませんでした。
それに比較して、漢方薬は眠さやだるさとは無縁に、症状を軽快してくれましたし、効果も従来の抗アレルギー薬に遜色ない、むしろ即効性や短期間の勝負では漢方薬のほうが勝るように実感されました。
いらい、院長はずっと漢方薬をアレルギー性鼻炎の主軸に据えて自己治療をしています。


スギ花粉症の有病率は30%程度という報告もあります。3人に一人は春が憂鬱な季節になっているわけですね。
ふるやまクリニックでも1月半ばから徐々にアレルギー性鼻炎の治療薬をもとめて来院される方が増えてきました。
院長は自身の経験をもとに、少しでも地域の患者さんにより快適な回答を見つけてほしいので、取るものもとりあえず、スギヒノキ花粉症に対するブログを一気に書き上げた次第です。

院長の花粉症対策
1) 予防
予防は、何よりも大切です。不要不急の外出自粛(よく耳にするようになりましたが)が効果的です。あとは、帽子、眼鏡、マスク(コロナ以前からN95使っていました)、花粉のつかない服装は大事です。
頻繁な洗顔も有効です。顔もかゆいですよね。
2) 治療
治療法は症状別に行っています。
#1鼻水
#2鼻づまり
#3目のかゆみ
#4顔のかゆみ
#5のどのかゆみ
#6夜間の呼吸苦 咳の頻発
に大きく分けて、薬剤も使い分けます。院長は極期は無茶すると喘息用症状も出現します。吸入もいいですが漢方薬のほうがマイルドで楽です。もちろん、喘息症状が続くときは漢方だけでなくきっちりステロイド吸入をしています。
また#3の目のかゆみには長い間苦しめられていた記憶があり、対処法を教わった時には、そしてその威力を実感したときにはとてもうれしかったことがいまでも忘れられません。一つは、目に付着した花粉の除去の方法です。抗アレルギー薬やステロイドの目薬を点眼しただけでは、アレルギーのもとが結膜に付いたままに上から薬を塗るようなものでちょっといただけないです。しっかりとアレルギーのもとを除去してから点眼したほうがずっといいと思います。洗い流すのは流水が一番効果的ですが、真水を目に入れるととにかく痛いです。また、カップ状の受け皿に洗眼水をいれて洗う方法もまぶたにいっぱい花粉が残って瞼がかゆくて仕方がなくなりますのでこれもちょっといただけません。
理想的な方法は、昔の眼科の診療所で診察の時に豪快に目をあらわれたあの感じです。生理食塩水を使って洗えばしみることもなく十分に洗浄できるように思います。携帯に便利なのはコンタクトレンズ用の生理食塩水の点眼薬です。ケチらずにいっぱい洗いましょう。そのあとに点眼薬を使うと大変よくききますよ。洗った後はしっかり拭ってください。液体が瞼で乾くとカップ洗浄と同じことになりますので。
もちろん漢方薬でも大変即効性のあるアレルギー性結膜炎治療に使える製剤があります。詳しくは外来で院長にお尋ねください。

花粉症の時期は気道の粘膜も敏感になって脆弱になります。細菌やウイルスに対する防御力も極点に低下し、たいへん風邪をひきやすくなります。急性の上気道炎や気管支炎、副鼻腔炎は花粉によるものかウイルス細菌によるものか、特に熱発していない場合は非常にわかりにくいことがあります。
細菌性の場合は抗生物質が大変有効ですが、病原微生物による気道炎症では圧倒的にウイルス性の可能性が高く、ほとんどのウイルスに対する抗ウイルス薬は存在していません。
気道の炎症である風邪症候群には基本的に対症療法が全てです。
そういった意味でも粘膜結膜の炎症である花粉症も、風邪症候群も漢方薬をともに上手に使用してやることが、無理なく疾患をコントロールするのによい方法ではないかと考えます。


人間は個人個人で、個体差もあり、また考え方も異なりますので、解決方法はいろいろあっていいと思います。院長はこれまでの人生の中で漢方診療に出会い、自身の苦しみの一部分を開放することができました。
また、これまでの診療の中で、漢方薬をうまく使うことで同じように苦しみから解放された多くの患者さんを診てまいりました。
たかが、花粉症ではありますが、現在の治療や、今使っている薬に限界を感じた時には、漢方薬も試してみてはどうでしょうか。
漢方薬は対症療法として優れた効果を発揮することができる場合もたくさんあります。また、西洋の薬剤では困難な体質改善も可能です。
興味のある方はこのシーズンに一度試してみられてはいかがでしょうか。もちろん、会う場合もそうでない場合もあると思います。花粉症の方は毎年決まって何年もつらい思いをされているので、ある意味目の肥えた患者さんだといえるでしょう。そういう方にぜひ試していただければと思います。


 糖尿病  メタボリックな疾患その3

皆さんお元気でしょうか。コロナなかなか変わりませんね。いつまでも続いて本当につらいですね。
さて、最近、患者さんからこんなことをよく聞かれるようになりました。
【新型ウイルスは併存疾患があると重症化するので怖いが、自分自身の状態は併存疾患というのだろうか?併存疾患としてどの程度コロナに弱いのだろうか。】
大変難しい質問だと思います。疾患名は上げることはできても、明確なライン引きは困難だろうと考えます。ただし、慢性閉塞性呼吸障害(COPD)のようにそもそもターゲットになる肺が弱い方や、糖尿病のように免疫機能に障害が出る疾患は要注意だと思います。

ガイドライン的には、高血圧や心疾患なども挙げられています。いずれも今まで以上にしっかりとコントロールしていく必要があるように思います。皆さんも気を抜かずに病気のコントロールを私たちと一緒に頑張りましょう。

さて、うえにも話が上がってきた糖尿病のことに関して今日はお話ししようと思います。

一般に内科の病気は、症状が出る前に検査で指摘だれることが多く、患者さん自身は実感がないものです。メタボリック関連で例外はあのものすごくいたい痛風発作ぐらいでしょうか、自覚できるのは。
症状が出ない分、治療する気持ちにもなりにくいのは当たり前だと思います。

それに対して、私たちは疾患の恐ろしさを知っておりますので何とか治療していただきたい。そして、ついつい、ほっといたらえらいことになるという論調で治療を誘導しがちですが、そこはぐっとこらえてできるだけ時間をかけてお話しするようにしています。

たとえば、あなたが糖尿病であるとしましょう。検診で血糖が高いとか、ヘモグロビンA1Cが高いなど言われて病院に相談に来ています。何年も前から言われているんだけど、ちょっと年齢も上がってきたのでさすがにちょっと診察に来てみた なんて方も結構おられます。

お話を伺って検査を再度行い確認してから治療へと向かうのですが、血圧でもなんでもそうなんですけど、メタボリックの患者さんは基本生活指導が治療のベースですので、程度が軽い場合は食事指導や運動療法のみでまず様子を見ていただきます。

少し生活指導のことをお話ししましょう。どんな治療をおこなうばあいでも基本となりますのでよく読んでくださいね。

食事指導と申しましても、当院には管理栄養士はおりませんので、私がいつもお勧めしているのは簡単栄養管理法の、手計法(てばかりほう)です。
食事の内容をご飯、肉や魚などのたんぱく質、野菜という風に分けて、一食分の目分量を図っていくやり方です。詳しくはネットで検索してみてください。あるいは、外来で私に尋ねてください。簡単でとても分かりやすい方法です。
この方法を使えば、精密な管理は無理ですが、一日1400から1600カロリー程度に食事のエネルギー量を抑えることができます。
体重管理として、だいたい体重1kg当たりの必要カロリー数は6000カロリーなので、例えば1か月で1kg体重を落としたいのであれば、一日当たり200カロリー減らしていけばいいことになります。おにぎり1個分程度のカロリーです。
外食中心に生活していますと、一日の摂取カロリーはあっという間に2000カロリーを超えてしまいます。
手計法で計算した量ですと、最初はおなかがすくかもしれませんが、簡単で誰でもできる食事管理法なので、薬剤治療が入らない患者さんはもちろんのこと、薬剤の治療と併用していく患者さんもぜひ利用していただきたいと思います。

運動療法は、私は補助的にとらえています。筋肉量を維持することで、運動をしていない静止時の基礎代謝を上げて、太りにくい体を作ることを目標としていただきたいです。
自分自身の経験で恐縮なのですが、開業前に1年間で13kgの減量を行いました。その時は食事管理と運動がとても良いバランスだったと思っています。食事の目安は手計法で行いました。運動はウォーキングを中心に行いました。以前のウォーキングに関するブログにも書きましたが、運動の目安は一日7000歩を超えないように設定しています。できるだけ毎日で。運動時間は40分程度までにしています。過剰なウォーキングは膝や足首、下肢の筋肉にダメージを与えるため、継続を旨とするのであれば、一か月の総歩行数は20万歩以内に収めたほうが良いといわれています。負荷をかけたい場合はインターバルトレーニングで早歩きをします。
そこまでしなくても、いまの生活の運動量に毎日プラス10分(+10という運動指標が厚労省から提案されています。一度ホームページを見てください)運動をすることで、ある程度筋肉量も担保されますので大変良いかと思います。
運動で体重のコントロールをするのを私はあまり勧めていません。ちなみにスポーツで体重を減らすためには週3回 毎回2時間以上のクロールでの水泳 レベルの運動が必要とされるということが分かっていますので、これを本気で実践するためには相当体を作りこんでいかないと難しいように感じます。
くれぐれもオーバーユース(使いすぎ、やりすぎ)にならないように気を付けてください。

さて、メタボに対する基本的な生活習慣改善の簡単な方針を示しました後は、いよいよ、疾患の薬剤による管理のお話に移りましょう。

糖尿病の管理の指標は血液検査が中心となっています。一つは血液中の糖の濃度である【血糖値】でもう一つが採血日からさかのぼって数日分の血糖値の平均を表す【HbA1c ヘモグロビンA1c】です。
こちらを適切に測定しながら薬剤のコントロールを行っていきます。

管理に関して極論を申し上げるとすれば
【低血糖を起こさない】
ということに尽きるのではないでしょうか。

以前のガイドラインでは正常領域での管理が推奨されていました。今も、若年者はそうですが、高齢者になると少し様相が変わってきました。

65歳以下のコントロールに関しては
HbA1cで考えると、血糖の正常化を目指す場合は6未満、合併症予防を目指すので7未満、強化治療ができない場合は8未満を目指すとされています。

高齢者の場合は
認知機能が正常または軽度で日常生活が自立できている場合はHbA1cが7未満
認知機能の障害上がって日常生活の自立ができていない場合は8未満
を目安とします。

インスリンやSU製剤(アマリールなど)を使用している場合は重症低血糖が起きる可能性があるので
認知機能と生活力が正常な場合は
65歳から75歳までは 6.5から7.5
75歳以上は 7から8
までにコントロールすること。
軽度の認知能力障害や軽度の生活障害がある場合は年齢を問わずに 7から8まで
重度の障害の場合は
年齢を問わずの 7.5から8.5
にコントロールすることが推奨されています。

このように、ずいぶんと幅のある、低血糖を避けるコントロール法が推奨される理由はただ一つ、低血糖による心血管障害が生命の予後を悪くすることが分かったからです。

このことを踏まえて、糖尿病の治療薬の選択を私は以下のように考えています。

1) メトホルミンを中心に据えた治療を行う
2) SU製剤(アマリールなど)を極力使わない
3) インスリン導入をためらわない

1の事項に関しては、まず、安価であること。それから、高血糖状態による体内でのインスリン利用の低下(糖毒性)を改善することが大きな魅力となります。ただし腎不全、アルコール依存症、心、肝、肺機能異常患者には乳酸アシドーシスに注意して使用する必要があります。メトホルミンはシックデイといって、食事がとれない体調不良時には休薬する必要があることは注意を要します。

2の事項に関しては、SU製剤が低血糖を引き起こしやすく、また、他の薬剤と併用する場合に特にそれが顕著になるということに注意が必要です。SU製剤は強力に自己のインスリンを誘導するため、適応には慎重を要すると考えています。たとえば著しい高血糖でしかも入院はしたくないし、インスリン投与は絶対いやだという場合などに用いればよいと思います。また、使用する場合にはできるだけ少ない分量にとどめるのが、低血糖を防ぐために良い方法です。
まだまだ、たくさんのSU剤をお使いになっている患者さんがおられますので、患者さんとじっくり話し合いながら、他の薬剤と入れ替えながら減量を図っていくのがよいでしょう。

3に関しては、大胆にインスリンを導入することで、体内の糖代謝の状態を改善し、体内の糖の代謝状況を早期に改善することで、最終的にはインスリンを離脱させる目的に使います。

経口で使用可能な薬剤が増えてきていることと、インスリンへの忌避感が強いこともあって、インスリンの使用はなかなか進まない感じがします。一つのめどとしては経口剤3種類を最大限用いてもコントロールできない血糖はインスリン使用の対象と考えたほうがよいでしょう。

メタボリック症候群に属する疾患は、指摘をされる時期には自覚症状がないものがほとんどです。
当院は整形外科の患者さんも多く受診されますが、
運動器の疾患と内科疾患との大きな違いは自覚症状の出方だといつも強く感じてしまいます。

からだの痛みは強い自覚症状になりますのでみなさん我慢できずに早めに来院してくれます。おかげで腕や足が動かないとか大変なことになる前に治療の導入ができますので、大きな問題に至らない場合が多いように見えます。

内科疾患のほとんどは、ずいぶん重症にならないと症状が自覚できません。医学の発達のおかげで、症状が出る前に異常が分かることが大変多くなっています。例えば高血圧でも、血圧を測ればわかりますし、糖尿病や、慢性腎障害、脂質の異常などは血液検査で異常値がよくわかります。ほとんどが、指摘を受けたときには症状がなく、病気の意味を理解しないと放置してしまう可能性が高いように思います。
多くが生命に直接関係しますので重症化するとすぐそこに生命の危機がやってきます。

さて、糖尿病の場合は3つの大きな合併症があります。
1)腎機能障害(進行すると透析が必要)
2)目の障害(視神経・網膜の障害)
3)神経の障害(手足のしびれ)
これらは糖尿病の特徴である細い動脈の障害から派生するものです。血管障害は比較的大きな血管にも波及し、心筋梗塞や脳梗塞、あるいは足の動脈の閉塞から指を失ったりすることもあります。
それ以外にも、糖尿病はからだの免疫機能の低下をきたすため、感染への抵抗力が低下したりがんが発生しやすくなります。

これら重篤な症状が発生するころには後戻りできなくなっていることも多く、早期に生活習慣の子不整と薬剤治療を始めることが大変大切になります。

程度にもよりますが、まず可能であればメトホルミンやDPP4阻害剤から開始し、A1cや血糖値を随時測定しながら薬剤を増減していきます。
前述のように、3種類ないしは4種類の違った効果の内服薬を組み合わせても制御できない場合はどうしてもインスリンの使用が必要になります。

メタボリック症候群のような内臓慢性疾患の治療をする際に、長期化する治療を嫌い、治療開始をためらう患者さんにもよく出会いますが、早期の場合必ずしも一生の付き合いになるわけではないこと、またある程度進行している場合でも、真剣に向かい合えば服薬量を減らしたりもできることをお伝えするようにしています。
生活習慣と体質が深く絡んでいる疾患なので、変えていくことは難しいですが、できるだけしっかりと病気に向かい合っていただき、長くご自分のからだをつかっていただくために、われわれも患者さんに寄り添っていきたいように考えています。


新年のご挨拶

 

  皆さん、あけましておめでとうございます。数年に一度の寒波が年末年始に襲来し大変寒い日々が続いておりますがいかがお過ごしでしょうか。
新型コロナウイルスも蔓延度を増して襲い掛かってきており、どうやら関西圏にも非常事態宣言が出されるようですね。何気なくふるまっていた日常がウイルスという天災に奪われてもうすぐ1年がたとうとしています。
今回の非常事態宣言自身は、昨年の様なものにはならないでしょうし、また前回と全く同じように我々も行動していると、精神的にも肉体的にもむしばまれてしまうでしょうから、自らの健康を損なうほどに引きこもることは避けてください(外出禁止れではありませんので)。


どうしても寒い冬場はそれでいても、運動量が減り、また、温かい室内で食っちゃ寝の生活をしてしまいがちで、メタボにシフトしてしまう要素が多いように思います。暖かい日、暖かい時間帯を選んで体を動かすようにしてください。
診察中にもよく、コロナが怖くてというお話を再び伺うようになりました。当院では密を避ける工夫を、可能な限り施行してまいりました。年明けからは、より換気を徹底するとともに、リモートの順番予約制度を導入し、待合での密を極力避けれるように工夫しております。どうぞご利用ください。


ふるやまクリニックでは、本年も変わらず、皆さんの日常生活の質の向上と、健康な日々を祈念しております。上手に環境をおつくりになって、体を動かし、体調を整え、日々のケアを怠らないようにお願い申し上げます。


メタボリックな疾患 その2高血圧

高血圧症は脳卒中、心臓病、腎臓病、大血管疾患(動脈瘤など)の強力な原因になっています。
血圧管理を必要とする対象者は血圧が140/90以上の高血圧患者、130~139/80~89の高血圧値の方、血圧上昇に伴い脳心血管系病のリスクが上昇する120/80以上の人 これがすべて対象になります。

我が国の高血圧に起因する脳心臓血管障害による死亡数は年10万人と推定され、収縮期血圧(高いほうの血圧)がより脳血管心臓血管の障害に関与しているデータがあります。

我が国の高血圧患者は4300万人と推定され3100万人が管理不良であるといわれています。自らの高血圧を自覚していない人が1400万人、知っているが放置している人が450万人、薬物治療を受けているが管理不良な人が1250万人いると推定されています。


わが国では食塩摂取が依然として過剰気味でありそれに加えてメタボリックシンドロームによる高血圧も増加しています。
血圧が高く、高血圧を改善する薬をもらった時に血圧を測定するように医療機関で言われると思いますが、標準的な測定方法はご存じでしょうか。
ガイドラインで推奨されている方法はやや堅苦しい感じがすると思います。
血圧の基準は家庭血圧を標準とします。原則2回測定し平均値を記載します。朝晩毎日1回ずつ測定するのが基本です。

外来で愚直にこう申し上げると、多くの方はうんざりした感じになってしまうので、私は『週のうち2.3回でもいいので、ランダムな時間で測ってください』ということが多いです。もちろんデータは多いほうがいいのですが継続していただくことが大事なので、患者さんとの話し合いで決めることが多いです。

診察室と家庭と24時間自由行動での血圧値はそれぞれ違う基準が設定されています。
診察室血圧は140/90、家庭血圧は135/85を基準値とし、家庭血圧を優先して考慮します。

高血圧の型もいろいろあります。日本人に多いのが早朝高血圧のタイプで、降圧薬服用者にも多い高血圧の型です。この中でモーニングサージと言って極端に朝の血圧が上がる方は血管系の障害を起こす可能性が高く注意が必要です。

血圧を下げる目安ですが、75歳以上、脳血管障害あり、慢性腎障害あり(たんぱく尿なし)の場合は140/90未満が目標です。75歳未満、脳血管障害あり、慢性腎障害(たんぱく尿あり)、糖尿病、高血栓薬(血をサラサラにする薬)を服用中の場合は130/80未満を目標にします。
服薬の原則は1剤からですが、20mgHg 以上の降圧を目的にする場合は併用することもあります。
降圧は収縮期血圧(高いほうの血圧のこと)を120までに設定することが望ましいです。


血圧に対する生活習慣上のケアの方法は、1)減塩(1日6g以下)2)野菜果物を積極摂取する。多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品の積極的摂取をおこなう。飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控える。3)有酸素運動を毎日30分ないしは週180分以上行う。4)節酒 5)禁煙
があげられます。こちらは降圧薬の内服のいかんにかかわらず必要です。

当院では、整形外科疾患の患者さんも多いので、運動器の障害を主に治療されることも多く、薬剤として血圧をあげてしまうものとして、ロキソニンなどのNSAIDといわれる消炎鎮痛薬やグリチルリチンを含む芍薬甘草湯などの漢方薬は頻用します。こちらは注意が必要となってきます。えてして、ロキソニンなどはうかつに長期使用してしまいがちな薬剤(腎機能障害や消化管粘膜障害もあるので本当は注意していただきたいです)です

以上生活習慣に密着した、最もポピュラーな疾患である高血圧の大まかな説明をさせていただきました。あまりに短すぎてきっちりとした説明もできないまま診療が継続してしまう場合もあるでしょう。この文章が参考になれば幸いです。


足が腫れる、むくむ   あなたのからだになにがおこっている?

みなさんこんにちは。

今日は、外来でよく質問される内容に関してお話したいと思います。最近足がむくんでとか、以前から足がむくむんですけどなどと、本当に頻繁にご質問があります。

まず、わたしたちが足のむくみを見たときにどのように考えるかをご説明します。

大事な判断のポイントとしては
#1 左右差があるかどうか
#2 腫れ(炎症)ではないかどうか
です。

左右差がある場合は、血管性の障害を思い浮かべます。血管がどこかで詰まっているのではないかと考え、検査を行います。簡便で情報が多いのがエコー検査でしょう。
また、炎症性かどうかも大変大事なポイントです。もっとも危険な腫れは細菌感染による皮下組織の炎症である蜂窩織炎です。蜂窩織炎は感染を起こしている部位の近くに感染の原因となるけがや病変があるのが普通ですが、全く見当もつかない場合もあり診断が難しい場合も少なくありません。治療は抗生物質の投与が中心となりますが、多くの場合静脈内投与が必要となってきます。また、場合によっては入院治療を必要とすることもあります。

まずは、おおきなふるい分けをした後に、臓器別の障害がないかを検討していきます。

チェックすべき部分は


1) 心臓
2) 腎臓
3) 甲状腺
4) 足の静脈
です。

心電図や血液検査、胸部レントゲン検査、超音波検査を行い、それぞれの臓器の機能障害の程度を診断します。
臓器の機能が問題ない場合は


1) 飲んでいる薬の副作用がないか
2) 以前にかかった病気はないか
を再度チェックしなおします

比較的身近な薬剤では、降圧薬(血圧を下げる薬)の一部、鎮痛薬の一部、糖尿病薬の一部にむくみの副作用があります。それらの服用歴がないかを中心に調べますが、これらの薬剤以外にもむくみを引き起こす可能性がある薬剤はありますのでチェックが必要になります。
以前にかかった疾患で影響のありそうなものとしては脳卒中、肝疾患などがあげられます。


脳卒中によって麻痺が生ずると、運動障害がおこるため麻痺がある部分の筋力低下がおこり筋肉によるポンプ機能が低下し局所に水分がたまりやすくなります。また、麻痺のため運動が低下すると血栓を形成しやすくなります。
肝疾患によって肝機能が低下すると、体に必要なたんぱくを合成する能力が低下し、血液中のたんぱく濃度が低下することがあります。たんぱく濃度の低下が起こると、水分を血液中に保てなくなり血管から組織へ血液中の水分が漏れ出て、むくみの原因になります。

今までのふるいにかからなかった方は、廃用性浮腫ということになります。
そもそも、健康な時、心臓から供給された血液は足まで到達した後、下腿の筋肉の収縮によって心臓へ戻っていく構造になっています。
下腿の筋肉が疲弊してくると筋肉のポンプ作用が発揮できなくなってふくらはぎを中心に水分が貯留します。報告によれば片方で数100CCも貯留可能であるとのことで、これが夜間頻尿の原因の一つになっているとの報告もあります。
いずれにせよ、年齢とともにやってくる、筋肉量減少(サルコペニア)や運動障害(ロコモティブ症候群)によくみられる出来事ですので、いつまでもご自身の足で歩いていただきたい当院といたしましては、やはり筋力を保つために一日10分で結構ですのでウォーキングをお願いしたい次第です。
以上が、足のむくみの大筋になります。


足のむくみが気になるとき方はお気軽にいちどご相談ください。


脂肪肝はこわいですよ。

むかしは肝臓病といいますと、肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎やお酒の飲み過ぎによるアルコール性肝障害が第一でしたが、最近ウイルスやアルコールが原因とならない、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増加してきています。それらは、進行すると肝硬変や肝がんになる恐れもあります。


私は以前、肝臓外科医として、肝臓の悪性腫瘍と長年向き合っておりましたが、近年はNAFLD由来の肝臓がんの方が増加してきており、ウイルス性やアルコール性肝障害がベースにある方と異なり、病気として認識されていない方が突如肝がんに見舞われる感じがあって、スクリーニングをするのが大変になってくるなと感じていました。
後から述べますが、脂肪肝の患者数は大変おおく(人口の30%以上)、その全体を肝がん予防として調査するのは大変なことになってしまいます。やはり、脂肪肝にならないことが重要で、脂肪肝を予防することがカギになると考えます。
さて、「脂肪肝」という言葉は多くの方に知られていますが、原因のひとつは飲酒による脂肪肝です。これに対し、お酒を飲まないのに発症する脂肪肝を非アルコール性脂肪肝とよびます。
生活習慣の乱れや内臓肥満、ストレス、昼夜逆転の仕事などが原因で脂肪肝が生じます。そうなると、顕微鏡で見た場合に、肝細胞のなかに油の粒が溜まってきます。
この段階ではまだ肝臓の細胞の多くは壊れていません。しかし、非アルコール性脂肪肝を放っておくと、だんだん肝臓の中の環境が悪くなり、肝細胞が風船のように膨らんで、細胞は壊れてしまいます(風船化)。働かなくなった肝細胞を片付けるために肝臓で炎症が起こり、それが長い時間続くことによって肝臓が硬くなる、線維化という現象が起きることがあります。これが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。
現在、国内での正確な患者数はわかっていませんが、人間ドックを受ける人で非アルコール性脂肪肝に罹患している人が30~40%であることから、推定で1000万~2000万人の潜在患者がいると考えられています。非アルコール性脂肪肝炎に進展するのはそのうちの10~20%に相当する100~200万人位と考えられています。
非アルコール性脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎を発症し、進行すると肝臓の細胞が長い時間壊れ続け、次第に線維化を起こし肝臓はだんだん硬くなっていきます。さらにこれを放置すると、10年後には約1~2割が肝硬変になります。肝硬変にまで進行すると年率で数%に肝がんが発生すると言われています。
障害を受けた肝細胞をもとに肝臓がんが発生するわけですので、この100~200万人が少なくとも肝がんの予備軍となるわけです。これは大変なことですね。
メタボリック症候群があからさまにがんと直結する例といっても過言ではないでしょう。これは、軽視できない事態であると思います。

メタボ肝臓病である脂肪肝は、もちろんほかのメタボ疾患と強力に結びついており、糖尿病や高血圧症、脂質異常症等といった生活習慣病や脳梗塞や心筋梗塞の原因と言える動脈硬化とも強い関連があります。
まずは糖尿病との関連ですが、非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪肝炎は血糖値の異常や2型糖尿病と強い関連があります。
人間ドックで空腹時の血糖が110 mg/dL以上の受診者のおよそ半数が、さらに空腹時血糖が126 mg/dL以上の受診者の68%が非アルコール性脂肪性肝疾患を有していたと報告されています。
また非アルコール性脂肪性肝疾患での糖尿病の有病率は47.3%で、糖尿病患者は肝硬変するリスクが何もない患者に比べて2.4倍高いと報告されています。


高血圧症の場合ですが、非アルコール性脂肪性肝疾患における高血圧症の合併頻度は、約30~50%で、動脈硬化や心臓病のリスクであり、相互にリスク関係が存在するといわれています。
やはり脂肪ですので、脂質異常症とは当然のように深い関係があります。
高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高中性脂肪血症などを総じて脂質異常症と言いますが、脂質異常症は非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪肝炎の有病率を上昇させることが知られています。

非アルコール性脂肪性肝疾患における脂質異常症の合併頻度は、約50%と報告されています。人間ドックを対象とした過去の報告では、高LDLコレステロール血症を有する受診者の38.5%が非アルコール性脂肪性肝疾患を合併し(正常者では26.4%)、低HDLコレステロール血症を有する受診者の61.7%(正常者では27.3%)、高中性脂肪血症を有する受診者の59.5%(正常者では22.8%)が非アルコール性脂肪性肝疾患を合併しています。
脂肪肝を診断するには、血液検査では非常に困難です。

 

きっかけとしては
1)自分のおなかの周り(腹囲)をはかる
男性ではウエストが85センチ以上、女性は95センチ以上の場合、脂肪肝を持っている人が半数以上となります。10kg以上増えているという方も要注意です。
2)糖尿病、高血圧、脂質異常症がある場合

となりますが、最終的な診断は腹部超音波検査で肝臓を調べることになります。腹部超音波検査を行いますと脂肪肝がある場合は肝臓がたまった脂肪によって輝いて見えます。また、隣の腎臓と輝きを比較して判断します。同時に、肝臓の形態の変化や、腫瘍を伴っていないかも被爆することなしに調べられて大変簡単でよい診断法であると思います。

治療としてまず挙げられるのは生活改善でしょう。


とくに、食習慣や運動、睡眠などを改善する必要があります。食事はバランスよく、一日の総摂取カロリーを適正に保つことが有効です。極端な炭水化物制限食や脂肪制限食などの効果は分かっていません。食事運動療法で7%痩せれば、非アルコール性脂肪肝炎は改善するという報告があります。また、10%の減量で、肝臓の線維化も改善すると報告されています。
運動は1週間に150分以上が望ましいとされていますが、1日10分でもいいので、体を余計に動かすことです。筋肉は第2の肝臓と言われ、筋肉が増えると代謝がよくなります。


運動は、軽く汗をかく程度の有酸素運動がよいと言われていますが、レジスタンス運動と言って、じっくり筋肉を鍛える運動(スクワットやもも上げなどの「筋トレ」)も効果があると言われています。腰や膝が痛いひとは、椅子に座って上半身だけの体操でも効果があります。
食事は、過剰な糖質や脂肪分の摂取を控えましょう。ジュースや清涼飲料水のとりすぎはもちろん、ビタミンの摂取に良いと思ってついつい食べ過ぎてしまう果物も果糖の過剰摂取につながりますので注意します。一方では、緑黄色野菜はビタミンやミネラルの摂取のためにたくさん食べるようにしたいものです。
また食物繊維も十分に摂るように心がけましょう。食物繊維は、満腹感を助け、トータルの食事カロリー摂取量を減らすだけでなく、摂取した糖質の腸管からの吸収を緩やかにする働きがあり、肝臓への負担を減らしますのでオススメです。
そうはいうものの、食事療法や生活改善は大変苦しいもので、なかなか長続きしないのも現実にある問題です。そのばあいどうしても薬物に頼って問うことになります。

薬物療法として、例えば糖尿病や脂質異常症、高血圧症合併がある場合は、それらの基礎疾患に対する治療薬で非アルコール性脂肪性肝疾患にも効果が期待されているものがあります。基礎疾患がなければビタミンE(抗酸化剤)も期待できます。
また、非アルコール性脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎そのものへの治療薬は、肝臓の炎症や線維化(硬くなる)を抑える薬などが我が国をはじめ世界中で現在開発が進められていますが、現時点では実際に効果が認められた特効薬はありません。
薬物療法を選択する場合でも、生活習慣の改善なしで取り組んでもなかなかいい結果が出ませんので、どちらも車の両輪として考えていただきたいと思います。
意外に顧みられていない様子の脂肪肝ですが、結構怖いですよ。地域の健康を担う開業医としては、皆さんに積極的に健康診断や特定健康診査を受けていただき、早め早めに危険の目を積んでいただきたいです。


熱中症大警戒~発火しそうな暑さの中で~

 

こんにちは。気が付いたら毎年夏はものすごい暑さです。私の子供のころは30度超えるとフーフー言って夏バテしていたものですが、今は35度を平気で超えてきますね。室内でも、冷房をかけていても身の危険を感じるほど高温です。
日課のウォーキングも日が昇る前にしないと、直射日光で気分が悪くなってしまう季節になりました。
さて、コロナと熱中症のダブルパンチで、あちらを立てればこちらが立たない状況になってきています。
密を避けられる場所では積極的にマスクを外して、体温を下げましょう。また、お互いのために、大声で話すことは極力控えましょう。
当院でも、梅雨明け前までは換気第一でしたが、いまは冷却と換気を同等に重視して対策しております。また、院内での飲料水の提供は感染防止の観点からウォーターサーバーはおいておりません。お手数ですがスタッフに水が必要であることをお伝えください。患者さんごとに個別に冷えたお水をお渡ししております。ご面倒ですがよろしくお願いします。

今日は熱中症のお話をしようと思います。
先日より、院内の壁掲示も熱中症に集中したものに変えております。ご来院された方はごらんになってください。
さて、熱中症への対策としては
#1 のどが渇いてなくても水分を取ること
#2 だるい 疲れた 汗が止まらない 食欲がないなど 何らかの症状があるときは早めに補液を行う(点滴や経口補水剤をもちいる)
#3 体液の保持を目的とした薬剤(漢方薬)を普段から服用する
などが あげられると思います。
熱中症の代表的な症状としては段階的に
1) めまい ほてり
2) 筋肉痛 筋肉のけいれん
などから始まり
3) 発汗の異常
4) 全身倦怠感 吐き気など
の全身症状が発症し
5) 意識障害
が最終的な段階の症状になります。

1)2)の段階では涼しいところに移動し、十分にからだを冷やして、塩分を含んだ水分をしっかりとる必要があります。


しかし、3)以上になると医療機関での治療が必要になってきますので、とにかくためらわず受診してください。一度の治療でもなかなか元に戻らないことも多いですので、軽く考えずに症状が出た場合はしっかり日にちをかけて治療しましょう。

熱中症予防としては
塩分の入った液体(経口補水剤 OS-1などが望ましい)を常に携帯して、少しづつ飲むことが標準的だとおもいます。
しかし私は、漢方にであってからもう少し違うものを追加提案させていただいています。


漢方薬には清暑益気湯といって、夏バテなどの解消に用いる薬剤があります。この薬剤は生津効果(体内の水分を保持する)があり、その効果を利用して熱中症予防として以前からよく処方させて頂いておりました。こちらは、熱中症になってからではなく、普段から服用されるのがよいと思います。
また、病院に来院される症状を伴う場合は清熱、生津効果のある白虎加人参湯も有効です。
高齢者や子供さんの場合、成人より体温調節機能が低い場合が多いので、より厳重に注意する必要があると思います。


信じられない酷暑の中でも賢く過ごして、熱中症にもコロナにも負けずに夏を乗り切りましょう。


メタボリックな疾患 ~その1 脂質異常症

皆さんこんにちは。
以前に、特定健康診査のお話をいたしましたが、非常事態宣言解除後、当クリニックでも三々五々と患者さん方が受診してくださっているので、地域の健康を預かるものとしてはたいへんうれしいことです。

今回はメタボリックシンドロームのお話をしようと思います。なぜメタボリックの第一弾のお話を超コモンである高血圧にしなかったかというと

どうも毎日診療していて、脂質異常は、比較的患者さんが重要視しておられないような気がしてならなかったからです。

もともと、高コレステロール血症とか高脂血症などと呼ばれてていた脂質異常症ですが、いわゆる善玉コレステロール(HDL-C)が低値である場合も人体には脅威を与えるため、高脂血症という名前だけでは都合が悪いため、名称改定を受けたわけですが、どうも語感のインパクトが弱くなったような気がします。

もともと、自覚症状が出にくい疾患なので(逆にいえば、自覚症状が出るころには遅い!)漫然と治療している感覚に陥りやすく、場合によっては自己判断で治療をやめてしまうこともあります。

特定検診受診時に、脂質異常症の治療をする意味をよく知っていただくのが良いと思いますが、なかなか時間的な余裕もないので、今回は脂質異常症の治療意義をあらためてお伝えするつもりで書きました。

脂質異常症を治療しなければならない理由は、それが心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性の疾患につながるからです。上記の疾患だけで総死亡率の約30%を占めています。


早期に治療を行うことで動脈硬化がひきおこす病気の予防が可能になります。また、適切に治療すると動脈硬化性の変化を改善することが可能です。放置するとどんどん動脈硬化は進行します。

特定検診や一般の検査で良く測定されているのがTG(中性脂肪)とHDL-C、LDL-Cです。
後者2つは善玉、悪玉コレステロールと呼ばれています。

いずれにしても、上記の脂質異常症が存在した場合は

① 現在の動脈硬化はどの程度か
② 治療をどうするか

が今後のケアを考えていくうえで重要になります。

① は血圧、
上下肢の血圧比(ABI)、
頸動脈エコー
でそれぞれ動脈硬化の現状を数値的、視覚的に評価するとよいでしょう。
ABIは半年に1回、頸動脈エコーは年1回程度が妥当と考えます。いずれも当院で施行可能です。

また、2次的な脂質異常症も数多く存在しています。例えば
肝機能障害、
甲状腺機能障害、
腎障害、
糖尿病、
飲酒、
ある種の膠原病、
利尿薬
降圧薬(β遮断薬)、
ステロイドなど
によって引き起こされるものが有名です。それらを意識しながら治療へと進みます。

② メタボリック症候群の治療の基本はいつでも
生活習慣と食事習慣の改善
がベースになりますが、私も以前LDL-Cが高くて運動と食事でトライしましたが無理でした。どうしてもきっちり下げていこうとすると薬剤の助けが必要になるようです。
もちろん、どんな治療でもそうですが生活改善なしに薬だけで治療しようとするとなかなか薬剤の効きがよくないので、必ず、食事制限や運動は必要です。

運動に関しては厚労省が提唱している
+10分運動
が取り入れやすいです。普段の生活の中で毎日10分余計に体を動かすことから始めようという試みで、体を動かすことが苦手な方でも無理なく運動負荷できると思います。

食事に関しては細かいことになると栄養士さんにかなわないですが、
卵や牛乳のとりすぎ(卵なら1日1個まで、牛乳なら1日コップ1杯までを目安に)
砂糖、炭水化物のとりすぎ
に注意することは外来でお伝えしています。
またトータルカロリーのコントロールとしては
手ばかり法
が簡単です。待合に掲示していますので来院時にご覧になってください。

治療は薬剤によるものがやはり中心になります。
LDLが高い場合、
LDLとTGが高い場合、
TGだけが高い場合、
HDLが低い場合
それぞれに選択する薬剤が異なります。
副作用としては肝障害と横紋筋融解症が有名で、定期的な血液検査でのフォローが必要ですので、嫌がらずに検査してください。
また妊娠中の女性にはスタチン(LDLを下げる薬)というお薬は催奇形性のため適さないので注意が必要です。
スタチンには糖尿病を増加させるとの報告もありますが1000人に一人程度ですので気にしすぎる必要はないと判断されています。

脂質異常症の予防効果としては、スタチンを用いた治療でLDLが約40低下すると、心臓の冠動脈(心臓の血管、つまると心筋梗塞をおこします)疾患は20%程度の減少、脳卒中は15%程度の抑制が認められます。

管理していくうえでの具体的な数値目標として、正常値を示します。
中性脂肪(TG)は150以下、
LDL-Cは140以下、
HDL-Cは40以上
です。
予防の目標としては、個人のもつリスクによってその目標値は変化します。
リスク設定は年齢や、性別、喫煙歴、高血圧や糖尿病の程度、家族歴などを加味したスコアによって決定されます。
TGの目標はすべてが150以下です。
LDL-Cでは
低リスクの場合のコントロール目標は160以下(検査上の正常値の上限を超えています!)
中リスクの場合は140、
高リスクの場合は120以下です。低リスクでも180以上のLDL-C値が続く場合は投薬を推奨されています。
疾患罹患後の2次的な予防は100以下ですが、冠動脈疾患のある場合はなんと70以下になります。
状況によってまちまちなので、注意してください。

当クリニックでは、外来受診の際にリスク確定のために、治療中の方にもリスク因子のおたずねを行っています。リスク決定は簡易法で主に行い、
5つの危険因子(喫煙、高血圧、低HDL-C血症、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患家族歴)
をもとに年齢と男女差でリスクが決定されます。

以上、脂質異常症の診療概略を書かせていただきました。

当クリニックではできるだけ、ガイドラインに準拠した形で皆様へ医療を提供できるよう心がけています。大病院へ行かなくても、大阪市内に行かなくても身近な場所で日本標準の治療が提供できるよう常に心がけています。


市民健診(特定健康診査)を受けていただきたいこれだけの理由

みなさん、こんにちは。非常事態宣言やっとあけましたね。本当に重苦しかったです。まだまだコロナ第2波への警戒もありますし、気が抜けない毎日ですが、うまく距離感を保ちながら、日常を取り戻していきたいですね。

当院でもいわゆる市民健診である、特定健康診査の受付を始めております。今日は、特定健康診査がどれだけメタボリック症候群に抑止力があるのかをお話ししようと思います。

特定健康診査はメタボリック症候群の発生を抑制するために特化した健康診断です。

少し古い解析データですが、2008年厚労省が行った特定健康診査受診者2000万人から抽出したデータで、審査後指導(検査後のデータをみて生活指導などをうけることです)を受けた方はメタボリック症候群の発症が30%抑制されたという結果があります。
検査の結果を踏まえて、きっちりと治療すれば素晴らしい成果を上げていることがわかります。

特定健康診査対象疾患は、高血圧、脂質異常症(コレステロールの異常、中性脂肪の異常)、糖尿病、高尿酸血症、慢性腎障害です。

  • 最高血圧130mmHg 最低血圧85mmHg以上
  • 中性脂肪150mg/dL以上
  • 空腹時における血糖値110mg/dL以上
  • HDLコレステロール値40mg/dL以下

上に示すのがメタボリック症候群の基準になります。
それではそもそも、メタボリック症候群の何が悪いのでしょうか。
高血圧になる理由の多くは動脈硬化(動脈が固くなること)のため、強い力をかけないからだの隅々まで血液が流れなくなるために起こっています。高い血圧のためさらに血管が損傷したり、ポンプである心臓にも大きな負担がかかることになり、心臓の機能低下につながる可能性があります。
脂質異常は動脈硬化の原因となり、血管が詰まったり固くなったりして、血液の流れが悪くなったり血圧が上がったりします。
糖尿病は小さな動脈が損傷をうけ、血の流れが悪くなりからだの各部の障害を引き起こします。また免疫機能の異常をきたすことも知られており、感染症にかかりやすくなったり、ガンになりやすくなったりします。
高尿酸血症はとても痛い痛風などで知られていますが、それ以外にも狭心症や心筋梗塞、脳卒中を引き起こしやすいという報告があります。
慢性腎障害は比較的新しい概念で、糸球体ろ過量(どれだけ腎臓で老廃物を捨てることができるかということ GFR)と尿中タンパク量で規定されるもので、狭心症、心筋梗塞、脳卒中に影響するとされています。
いずれも三大疾病のうちの二つ、脳卒中と心筋梗塞をターゲットとしており、メタボリック症候群対策はこの二つの撲滅を目標に掲げています。
ちなみに三大疾病のもう一つはがんですが、こちらはがん検診での対応と考えられています。がん検診に関しましては、また機会を改めましてお話したいと思います。

ではそれぞれの疾患がどれくらい影響するか、予防効果はどれくらいのものか、脳卒中を例に数字を示しながらお話していきます。


脳卒中といいますが、脳の血管が詰まる脳梗塞と血管が破綻する脳出血、くも膜下出血に大別されます。突然意識を失って身体がうごかなくなるイメージが強いと思いますが、手足がしびれる、ろれつが回らない、物の見え方がおかしい、ふらふらするなどの症状から始まるものも多いので注意が必要です。特に脳梗塞の場合は、これまでの日本人は動脈硬化性の脳梗塞、つまり脳の血管が固くなったり詰まったりして血液が届かなくなるために起こるものが多かったのですが、心原性脳梗塞(心臓にできた血の塊が脳の血管に飛んで血管が詰まるために起こる脳梗塞、心房細動による血栓が多い)も多くなってきています。
脳卒中の発生頻度は2010年で10万人あたり166人でうち、脳梗塞が107人、脳出血が42人、くも膜下出血が7人です。2011年での概算発症者は29万人で、うち死亡者は12万人です。
脳卒中と関連深いのが、メタボリック症候群の高血圧、糖尿病、脂質異常症です。
まず血圧の関与ですが血圧が5下がると発症率は40%以上低下します。高齢者の場合血圧の低下は脳卒中の危険性を30%低下させますが、あまりの低血圧(最高血圧が100を切るくらいまで抑制しつづけること)は脳血管の血流を下げてしまう可能性もあるので慎重にならなければなりません。
糖尿病はヘモグロビンA1cの厳格すぎる低下を目指すと逆に脳卒中が増加する(低血糖発作頻発のため)ので、昨年のガイドラインでは年齢と全身状態にあった管理が推奨されています。女性の方、血圧の高い方、脂質異常症のある方、喫煙者の方はリスクが上がります。低血糖が発症に悪影響を与えるため、スルホニルウレア剤はできるだけ少量投与を目指されるようになってきています。
脂質異常症に関してはスタチン(LDLコレステロールを下げる薬)の大量投与で発症を30%抑制する報告があります。目安としては中性脂肪(TG)が150以下、LDLコレステロールが160以下が望ましいと考えます。LDLコレステロールが40下がると15%の発症率低下があります。食事療法だけでの完全は困難で、食事療法+薬剤療法の組み合わせで3年後の発症を35%抑制します。特に女性場合55歳以上では53%の抑制効果があります。
以上のように、メタボリック症候群をコントロールすることで大変大きな効果を示すことが示されていますので、そのきっかけになる特定健診は非常に便利で有意義なものであることがお分かりになると思います。しかし、特定健康診査の受診率は全国平均でも50%に満たないもので、特に都市部での受診率は低いものです。せっかくのチャンスを有効利用できていない方がたくさんいることが、医療者として大変気になるところです。
メタボリック症候群は、症状が出るまでは大変【しずかな】病気です。自覚症状はあまりありません。逆に何らかの症状が出てくるときは、ずいぶん病気が進んだ状態になって、コントロールに難渋することが多いです。早めにチェック、早めのケアでより良い人生を送っていただきたいと思います。