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みなし陽性の適応②

2023年5月からはコロナへの対策を少しずつ緩めながら、生活や教育を取り戻していく方向に舵が切られ、マスクを外す機会やたくさんの人数で集まるイベントも増えました。

ずっとあのような抑圧された生活を人間は続けることはできませんから、どの国も遅かれ早かれ制限を緩める方向に進んだわけで、これは自然な流れでした。

ただ結果として、その後から老若男女を問わず発熱など感染症症状を訴える患者さんが激増しました。

これは数年間感染対策を厳しくしたために、子ども達が小さいうちにかからなければいけないウイルス感染の経験をしておらず、また大きい子や大人も免疫が下がってしまったためと考えられます。

そのため、バラエティー豊かな病原ウイルスが同時多発的に流行するという状況が続いています。

お兄ちゃんがインフルエンザA型で、2日後に熱が続発した妹がコロナであったり、同時に熱の出た親子がインフルエンザB型と溶連菌というそれぞれ別の感染症であるという、以前はレアだった現象が頻発しています。

このような感染症の種類が多い中でみなし陽性をたくさん採用した場合、誤診が非常に多くなるリスクがあります。

当分の間、当院では家族内続発と思われるエピソードでも原則みなし陽性はせずに、検査をして診断をしています。

ただ家からほぼ出ていない専業主婦のお母さんや未就園児が、非常に怪しいタイミングで高熱が出たような時は引き続き検査をせずに診断をすることもあります。

さて、コロナからの数年間で分かったことは、麻疹のように圧倒的に効果のあるワクチンが開発されている感染症以外のいわゆる日常的に出会うかぜのウイルス達には、結局継続的にかかって免疫の修行をしていくしかないという切ない現実でした。

では日常生活を大きく阻害されずに感染症にかかっていくというのは具体的にはどのようなことを意識するのがよいでしょうか?

それは「かかってもしょうがないかという時期」と、「今は絶対かかりたくないという時期」を明確に分けて動くことです。

来週海外旅行に行く、もうすぐお姉ちゃんが高校受験だ、末期がんのおじいちゃんが家にいる、などの時は、家族全員で全力で対策をするべきです。

一方で、修学旅行中とか、大学生が夏休みにミスチルのコンサートに行く、などの場合は最悪その後寝込んでもいいかと思って楽しめばいいのではないかと個人的には考えます。

ですので「闇雲にずっと厳格な感染対策をする」というのも、「もう一切対策はしない」というのもどちらも極端すぎて損をするように思えます。

ただし、このやらなくてはいけない免疫の修行の中での例外はノロ胃腸炎とインフルエンザです。

この2つは何回かかっても、大人になってからかかっても、毎回めっちゃしんどい!ので、ある意味「かかり損」のウイルスと言えます。

感染対策を緩める時代になったとは言え、この2つが流行している時期(一般的には冬)は手洗いを増やしたり、マスクをすることを検討することはとても理にかなった作戦ですね。


みなし陽性の適応①

現在の熱の原因のトップはインフルエンザB型で、2番手がコロナとなっており、インフルエンザA型は出ているもののだいぶ減ってきました。

ずいぶん前にインフルエンザについてのブログで、検査をせずに陽性と診断するいわゆる「みなし陽性」が、なまじ検査をするより正確度が高いことがあるという話をしました。

またコロナの初期の頃にも、検査をせずにコロナと診断を下された方もたくさんいたと思います。

感染症の世界も刻一刻と状況が変わるため、このみなし陽性の考え方についても流動的に適応する必要があります。

まず、どんな時にみなし陽性は正確度が高くなるかについて見てみましょう。

いつも口を酸っぱくしてお話するように、検査は発熱の開始から早いほどに大幅に感度が下がり、検査の意義が低くなります。

日本の医療の仕組みでは、インフルエンザやコロナ検査は全ての年代でやればやるほど売り上げが上がるので、少なくとも開業医の先生に、今は検査しない方がいいよと言われた場合、100%患者さんのためを思って言っていると考えて間違いありません。

早すぎる検査はお金がかかるだけでなく、痛みも1回分余計に増える可能性が高く、また本当はインフルエンザなのに陰性が出てしまうと「よかった」などと誤った印象を持ってしまい感染をより広げる結果となります(もちろん重症の例などウイルス量が非常に多そうな時は早い段階で検査をすることもありますが)。

またインフルエンザの薬というのはそれほど劇的な効果はありませんし、小さい子は苦すぎて飲めないこともとても多いこと、また薬を希望するにしても発熱から48時間以内は適応となりますから、「できるだけ早く検査をして、薬をもらう」ことを目指すと損をする可能性が高くなります(意識がおかしい時、呼吸がおかしい時は例外ですぐに病院へ!)。

確かにインフルエンザは手ごわい感染症で入院がいるほど症状がひどくなることも稀ではありませんから、熱が長引いた時などは注意が必要ですが、薬を早く投与するかで元々健康な小児の入院率が劇的に下がるような効果はありません。

さて、発熱12時間以上のいいタイミングで検査をした場合、検査キットはその実力を十分に発揮し、90%ちょっとのインフルエンザやコロナの患者さんを拾い上げることができます。

逆に言うと数%は発熱から十分な時間が経ってからも検査で「陰性」と出てしまうとういことです。

このため、インフルエンザやコロナの可能性がほぼ100%である時には検査をしない方が正確に診断を下せることになります。

これが「みなし陽性」と言われるものです。

以前は小学校高学年や中学校以上の子どもは、小さいうちにたくさんその他の高熱のウイルスの経験を積んでおり、他の家族がインフルエンザを発症した直後に熱を出した場合、それ以外の原因の可能性が極めて低かったため、そのような状況でかつ高熱の場合には検査を意図的にしないことでより正確な診断をすることがありました。

また、コロナ初期の頃はもっと分かりやすく、家族の誰かがコロナに感染した時にはその他の家族はまるで犯罪者のように家に10日間軟禁されるというルールがありました。

さらにそもそも他の熱の原因が相当減っていたこと、および検査キットが不足していたことから、可能性が十分に高い患者さんをみなし陽性で診断することが多くありました。