嘔吐・下痢の本人にとっては、ウイルスの種類が何であっても、対策が変わったり、薬が変わるわけではありません。
「かぜを知ろう」でお話ししたように、ウイルスを直接やっつける薬はありませんので、検査をしてノロやロタと分かっても、本人には恩恵はありません。
(大きい病院などで検査をする重要な目的のひとつには、地域での流行の把握があります。ただし、ノロウイルス検査は3歳以上の児にはそもそも保険適応がありません。)
何ウイルスによる胃腸炎かは便の検査をしなければ確定はできませんが検査自体の感度は皆さんの想像以上に低く、本当はノロなのに陰性と言われてしまう子が非常に多くいます。
陰性の結果を聞いて、ひどい臭いの下痢や食欲不振の我が子を園に預けようとする親御さんもいるため、検査を重視すると感染が広がるという皮肉な現状があります。
これを踏まえて、当院ではノロ、ロタウイルスの検査は行わずに全てまとめてウイルス性胃腸炎として対策を勧めています。
実際にはノロやロタは一旦はやり始めると、シビアな嘔吐・下痢症のほとんどがこれらのウイルス一色に染まるため、流行期には検査をしなくてもこれらのウイルスとして扱うくらいが適切です。
まわりのご家族は、全ての嘔吐・下痢はうつるという認識を持ったうえで、特に冬場の胃腸炎は「ノロの胃腸炎かも」、という前提で動きましょう。
寒い季節のくさーい下痢便はかなりあやしいでしょう。
うつらないようによく手洗いするのはもちろんのこと、ノロはアルコールに耐性ですから、嘔吐した床などの消毒は塩素を含んだ洗剤を用いて行います。
ノロからやや遅れて流行する胃腸炎に、ロタウイルス胃腸炎があります。
冬のノロ、春のロタとよく言われます。
嘔吐がしんどいノロに対して、下痢が長引きやすいのがロタの特徴です(これも個人個人で様々ですが)。
白っぽいクリーム色で、つーんとする酸っぱい匂いがあるとかなり疑わしいでしょう。
そしてそれ以外にも1年を通じて様々なウイルスが嘔吐下痢を引き起こします。
その中でもノロとロタが有名なのは症状も感染力も強いからですので、冬から春にかけての嘔吐下痢は他の季節より、余計に注意ということになります。
集団生活の復帰に関しても、ウイルスの種類によって基準に差はありません。
嘔吐をしている間や下痢がひどい間はまわりにまき散らす力が強いわけですから、何ウイルスだろうがお休みが必要です。
逆にノロやロタであっても、嘔吐が下痢が軽く順調に収まれば比較的早期から集団生活には戻れることになります。
厳密には便には2,3週間にわたりウイルスが排泄されるので、本当に人にうつす心配がなくなるのには1か月近く休まなければならないことになりますが、これは現実的ではありませんので、実際には元気や食欲が戻り、そこそこの便になれば復帰してもらっています(1週間以上休むはめになりそうな時は再診して状況を判断してもらうようにしましょう)。
元気で食欲や便が改善している、というのは診察で分かるというよりは親御さんや先生の方が把握しやすい要素です。
本当はまだ下痢がひどいのに登園許可証をどうにかしてgetして登園させると、園の先生方は断ることができなくなり感染が大幅に拡大すること、元気になった児を病院に連れていくために親御さんの休みが余計に長くなること、医療機関に負担がかかることから、コロナ禍以降胃腸炎に関しても登園許可証は廃止の方向になっています。当院でも記載していません。
なお、ロタ胃腸炎に関してはワクチンがとても有効です。(生後15週未満に開始する必要があります。)