月別アーカイブ: 2013年3月

禁煙

朝晩はまだまだ肌寒いですが、今週末から来週にかけてお花見本番といった感じですね。

さて、今回のブログは「禁煙」についてです。

循環器医が「禁煙」の話をすると「また、『止めなさい』と言うのでしょ!耳にタコができますよ!!」と少しムッとされる方もおられると思いますが、イギリスから禁煙に関する興味深い報告がなされたのでご紹介いたしますね。

イギリスでは2007年7月から屋内の公共の場や職場などでの喫煙を禁止する禁煙法案が施行されているそうです。そこで公衆衛生学の先生が禁煙の効果について調べたところ、急性心筋梗塞での入院が減少していたことは(循環器医的には)当たり前なのですが、驚くべきことにそれまで年間2.2%の割合で増加していた、重度の喘息発作による小児の入院が禁煙法施行後の1年間に12.3%も減少したとのことです。

これは、子供の受動喫煙が減少したことによって、喘息発作の誘発がされ難くなったことによる効果だと思われます。

もちろん自分のための「禁煙」ですが、子供達を守る「禁煙」をしてみても良いのではないでしょうか?


糖質制限食(低インスリン食)

医院内は空気清浄機と加湿清浄器がフル回転しているので快適なのですが・・・・・・・最近外に出ると眼がゴロゴロする感じがあります。花粉症の方は大変だと思いますが、最近は眠くなりにくい花粉症のお薬もありますので御相談ください。

前回は「ヒッグス粒子」について書いたのですが、スタッフから「難しすぎる」と駄目出しをされてしまいました。思い入れの強い趣味に走った文章は読みにくいのだと反省しきりであります。

さて最近、糖尿病学会が糖尿病の治療において「糖質制限食」(いわゆる「低インスリン食」です)を推奨しないと発表しました。それではなぜ「糖質制限食」を推奨しないのでしょうか?今までのブログをお読みになっている方はすぐに答えが出ると思いますが・・・・・・

そうです!「エビデンス」が無いからなのです。

糖質を制限することにより、体重の減少や血糖コントロールの改善、膵臓でのインスリン分泌の減少など「論理的」には、糖尿病に良い効果が期待されます。一方、最近の大規模臨床研究によるエビデンスでは血糖を強力に下げると低血糖が頻発して死亡の危険が高まることが明らかになっています。(さらに極端な「糖質制限」は栄養のバランスを崩して思わぬ健康被害の原因になります。)

「糖質制限」を糖尿病の治療に加えた場合に、良い面が勝るのかはたまた悪い面が顕著化するのかを判断するエビデンスが無いのです。(エビデンスについては以前のブログ「エビデンスとは?」をお読みください。)

今後、「糖質制限食」についてどの様なエビデンスがどのタイミングで報告されるのか注目していきたいと思っています。


物理学と医学

春の陽気だと思っていたら急に真冬の寒さと、気温の変化が激しいですね。朝は寒いのに昼からは汗ばむような暖かさ・・・・・・体調管理にお気を付けくださいね。

さて、今朝の新聞でヒッグス粒子の存在が最新の観察データで裏付けられたとの記事が出ていました。1960年代に「理論的」にあると言われながら、高エネルギーの加速器が登場するまで観察できなかったのだそうです。かく言う私も物理学の専門家ではないので聞きかじりの知識になってしまうのですが、ヒッグス粒子について簡単に説明したいと思います。

我々の住んでいる宇宙は、我々の体や地球も全て物質によって形作られていますが、これはこの宇宙において「物質」が「反物質」に比べてわずかに出来やすいため今の形になっているとのことです。
それは物質と反物質が一緒になると形が無くなって光になってしまうので、物質が反物質に対して出来やすいのでなければ宇宙は形ある物は無く、光に満たされているはずだというのです。

物質が反物質より出来やすい事を物理学的に説明する理論(自発的対称性の破れ)からヒッグス粒子の存在が導き出されているのだそうです。この物質宇宙を生み出す元になった粒子なので「神の粒子」という名前で、一時マスコミを賑わせたことを覚えておられる方もいますよね。(私はわくわくしながら、レーダーマン博士の著書を読みましたが当時も?????でした。)今回その粒子の存在が確認され、理論の確かさが確認されたわけです。

ヒッグス粒子の例のように物理学では、「理論と観察」が一つのセットとなって進んで行くのです。「理論と観察」のどちらが欠けても「真実」から遠ざかってしまうからなのだそうです。

近年、医学の分野では「理論の医学」ばかりが脚光を浴びて「観察の医学」がないがしろにされているような気がします。象牙の塔の中(理論の医学)ばかりでなく、実際の臨床における「観察事実(観察の医学)」に眼を向けなければ「真実」から遠ざかってしまうのではないかと今の医学に危うさを感じてしまいます。(「理論の医学」と「観察の医学」については、またの機会に書きたいとおもいます。)


NFF2013

「冷え込むなー」と思っていたら、急に春の陽気ですね。あと、花冷えの頃を過ぎれば本格的な春ですね。

最近はヘビーな内容のブログが続きましたので、今回は「お知らせ」ですので気楽にお読みください。

5月18日(土)・19日(日)は、「第6回ノルディックフィットネスフォーラム2013in大阪」(NFF2013)が大阪万博記念公園で開催されます。全国のノルディックウォーカーが集う大きなイベントだそうですので興味のある方は、運動不足の解消にいかがですか?

協賛企業名に当院の名前を載せていただいています。

CCI20130308_00000.JPG

CCI20130308_00001.JPG


エビデンスとは?(6)

段々と春の足音が大きくなるような陽気が続いていますね。週末はその足音も少し後退気味だそうですので、体調管理にお気を付けください。

これまでエビデンスについて「エビデンスのレベル」を中心に書いてきましたので、なんとなくイメージしていただけるようになっていると思います。そこで、今回はこのシリーズの最後として、エビデンスがなぜ必要であるかについて書きたいと思います。

まず最初に結論を書いてしまいますと「出来うる限り『想定外』の事態を無くすために必要」だからエビデンスが必要なのです。

人間の体は色々な因子が複雑に絡み合っており、直感的な推論が必ずしも成り立たないのです。例えば「糖尿病で血糖のコントロールを厳しく行うと返って死亡率が上がってしまった。」ことが挙げられます。

「糖尿病治療の病態は血糖が高くなることである。」→「インスリンを含め色々な薬物治療で血糖コントロールできるようになった。」→「失明や腎不全で透析になる人は劇的に減ったが、心筋梗塞・脳梗塞などの病気はあまり減っていない。」→「より厳しい血糖コントロールし糖尿病を良くすることで、心筋梗塞や脳梗塞が減らせるに違いない。」

これらの推測は医学に携わるものとして十二分に納得できるものであり、大半の医師が多かれ少なかれそのように思っていたことは間違いありません。しかし、エビデンスを求めて「前向きの大規模ランダム化試験」を行ったところ、先ほど挙げた「糖尿病で血糖のコントロールを厳しく行うと返って死亡率が上がってしまった。」事実が判明したのです。

これは「厳しい血糖コントロールをすると心筋梗塞や脳梗塞が増えた。」のでは無く「厳しい血糖コントロールで低血糖を起こすリスクが高まり死亡が増えた。」ことが原因だったのです。医学界全体に激震が走ったのは以前お書きしたとおりです。

一見何の問題もない推論でも、事実を確認しなければ思わぬ「想定外」に足下をすくわれてしまうのです。そのため判断や推論の根拠となる事実(エビデンス)を常に念頭に置いておく必要がありますし、そのようなエビデンスが無ければ全国民が一体となってエビデンスを創出する必要があるのです。

治療方針の説明に納得できない場合には、医師の判断や推論の後ろに隠れている「エビデンス」についてお尋ねになれば、不安が和らぐかも知れません。(全ての治療にエビデンスレベルの高い物があるわけではありませんので、その点はご考慮いただけると幸いです。)

今回はこれまでにいたしたく存じます。(大河ドラマ風に)