カテゴリー別アーカイブ: 生活習慣病

倹約的遺伝子

今年に入って、何だか木曜日と金曜日の雨が多いような気がしませんか? 今日は気温も低く東京では雪が降っていた様です。交通麻痺など起きなければ良いのですが・・・・・

日本病態栄養学界は、ユネスコ無形文化遺産にも登録された「和食」の科学的エビデンスを国内外に発信することを目指す「京都和食宣言2015」を採択しました。

内容は、

1. 我が国における食を評価する
2. 和食のすぐれた点を見直す
3. 和食に関するエビデンスの蓄積を進める
4. 健康に資する和食を次世代に継承する

とのことです。

私が感心したのは「京都和食宣言2015」そのものではなく、この宣言を紹介した記事の中に「(和食は)倹約的遺伝子を持つ日本人に合理的」との記述なのです。(日本栄養学界の先生方ゴメンナサイ。)

この「倹約的遺伝子」というフレーズを使えば、「倹約的遺伝子を持つ日本人は、欧米的な高カロリー・高脂質食に耐えられない。」と生活習慣病について、分かり易く説明出来るなぁと膝をポンと打ちました。

しばらく「倹約的遺伝子」はマイブームになるかもしれません。

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糖尿病とスタチン

先週辺りから、風邪やインフルエンザで受診される方が増えています。皆様も感染予防にお気をつけ下さいね。

さて、今回は米国糖尿病学会(ADA)が先月発表したガイドラインの話です。

糖尿病のガイドラインの特徴として、治療に際して血糖値だけではなく、血圧や脂質の目標値が決められていることが挙げられます。心血管疾患予防の観点から、糖尿病だけでなく他の生活習慣異常を改善する事が大切だというわけです。

今回のガイドラインの改訂では血圧に脂質に関しては目標値を目指した治療ではなく、それぞれの心血管リスクに基づいた治療方針に変えられています。

「心血管疾患を有する全糖尿病患者において、生活習慣の是正に高強度のスタチン療法を加えるべき(グレードA)」

「40−75歳で他に心血管疾患の危険因子のない糖尿病患者では、中強度のスタチン療法と生活習慣の是正を考慮(グレードA)」

細かい文言は、まだ原文で読んでいませんが、実質全ての糖尿病患者にスタチン療法を推奨した内容になっているようです。

(グレードA)は、大規模研究からきちんとしたエビデンスが出されており、信頼度が非常に高い事を示しています。

医学も日々進化していますね。

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生活習慣と生活習慣病(5)

今回は前回までの関連として「体質と環境のミスマッチ」についてもう少し書きたいと思います。

当院を受診され、生活習慣病である事が血液検査等の異常から判った場合、日頃から健康に気をつけて生活なさっていますかとお聞きすることにしています。

自ら当院を受診された大変健康意識の高い方が多いので、たいていの場合「しています。」という返事が返ってきます。

そんな時には、「特に改める生活習慣が思い付かれないようでしたら、薬を始めましょう!」とお伝えするのですが、「???????」と丸い目でビックリされることがあります。
今にも「健康的な生活を送っているのに、何で薬なんで・・・」という言葉が今にも出て来そうです。

これまでの私のブログを読まれている方でしたら、察しがつくと想いますがいかがですか?

そうです、「良い生活習慣」をしているのに生活習慣病の「検査異常」が出ているのは、9000歩も歩いているのに耐糖能異常(IGT)がある人と同じと考えられるのです。(多く歩いているのに耐糖能異常(IGT)になっている人は、さらに多く歩かないとリスクを減らせないのです。)つまり「良い生活習慣」をしているのに生活習慣病の「検査異常」が出ている方は、それ以上「生活習慣」を改善できないので、服薬によってリスクを下げる必要があるのです。

結局薬を飲まないといけないのなら、「良い生活習慣」をしてきたのは無駄な努力だったのでしょうか?

決してそんなことはありません。もし「良い生活習慣」をその人がしていなければ「環境と体質のミスマッチ」の観点から、もっと病態がひどいことになっていて、「薬を始めましょう」などと暢気なことを言っていられなかったのかもしれないのです!高い健康意識と弛まぬ努力で「環境と体質のミスマッチ」の影響を最低限に抑えてこられたのです。

「体質と環境のミスマッチ」は他人との「比較」ではなく、自分の健康を「評価」し続けなければわからないものなのです。

「生活習慣と生活習慣病」の微妙な関係について、分かり易く説明できていますでしょうか?皆様の「評価」にお任せいたしたいと思います。


生活習慣と生活習慣病(4)

「長袖を仕舞えないなぁ」と話していたら突然真夏のような暑さですね。気温の急激な変化は予想以上に体調に影響しますので、十分な睡眠と規則正しい生活リズムを心がけてくださいね。

さて、前回のブログで『「良い生活習慣をしている人」の方が「良い」とは限らないのです・・・』と書きました。今回は、私なりの説明をいたします。

ある特定の人が「良い生活習慣」と「悪い生活習慣」をした場合には、皆さんの直感の通り「良い生活習慣」をしている場合の方が「良い」のはいうまでもありません。今回の研究でも、運動量が増えて生活習慣が改善した人は、心血管疾患のリスクが減っていることからも明らかですね。

誤解のないように敢えて書きますと、1日9000歩の人が1日11000歩に運動量を2000歩増やせば、この研究結果から10%近く心血管疾患のリスクを減らすことが出来るのです。

しかし、集団で観察した場合には特定の人で見た場合程単純には行かないのです。なぜなら、それぞれの人の体質(遺伝子環境)が異なっているからなのです。つまり、「体質と環境のミスマッチ」によって病気になるという考え方をしないと混乱の元になるのです。

それでは、この研究において「体質と環境のミスマッチ」の観点から考えてみましょう。

そもそも運動量が多い(1日9000歩も)のに、糖の代謝が正常化されず耐糖能異常(IGT)であるのは、体質(遺伝子環境)的に糖尿病になりやすいのだと判断できます。そのため、多く歩く人のグループには体質的に糖尿病になりやすい人が多く含まれる結果になるのです。

もちろん遺伝的に糖尿病になり易いがあまり運動しない人もいますが、その様な人は「体質と環境のミスマッチ」が大きく糖尿病になってしまっており、糖尿病の前段階である耐糖能異常(IGT)を対象としたこの試験に参加できないと考えられるのです。

この偏りが、前回のブログに書きました「さらなる驚き」の原因になっていると思われます。(通常良い生活習慣を維持するのは、悪い生活習慣を改めるより大変なのです。)

私の説明に御納得いただけましたでしょうか?

次回は、もう少し「体質と環境のミスマッチ」について書いてこのシリーズをまとめたいと思います。

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生活習慣と生活習慣病(3)

*前回までのブログを読まれていない方は是非先に「生活習慣と生活習慣病(1)(2)」をお読みください。

多くの人が「悪い生活習慣を続けているので病気になるのだ!」と考えておられ、「生活に気を遣っている人のほうが生活習慣病になっても軽症だ!」とイメージされているのではないでしょうか?

ところが前回のブログでご紹介したように、(研究の)開始時の生活習慣は心血管疾患のリスク低下に関係せず、その後にどれだけ運動量が増えたかによって心血管疾患のリスクが減るというのです。
つまり、(研究の)開始時に「良い生活習慣」を行っていても「悪い生活習慣」を行っていても大差がないとの結果なのです。

本当に直感的なイメージを覆す結果ですね。

それでは前回の最後に書いた「さらなる驚き」について書きたいと思います。

イギリスからの報告の内容に興味を持ったので、論文を取り寄せて読んでみたところ(当然)記事と同じ内容が読み取れました。確かに運動量が増えると直線的に心血管疾患の発症率が下がっていました。「フムフム」と読み進めていると、研究の開始時から運動量の増えた人・減った人を分類した表に出くわしその内容にビックリしたのです。

運動量が「変わらなかったグループ」「少し増えたグループ」「多く増えたグループ」の(研究の)開始時の運動量は1日5000歩から6000歩とあまり変わらなかったのですが、それに対して「運動量の減ったグループ」(つまり沢山心血管疾患になったグループ)は実に1日9000歩!も(研究の)開始時には歩いていたのです。

「良い生活習慣をしている人」の方が「良い」とは限らないのです・・・・・・

何故この様な結果になっているのでしょうか?

次回、私なりの説明をしますね。


生活習慣と生活習慣病(2)

前回は、基礎知識として前糖尿病状態である耐糖能異常(IGT)について簡単に説明いたしました。今回は、「前糖尿病状態である耐糖能異常(IGT)の方が一日2000歩余分に歩くだけで心臓発作のリスクが低下する。」というイギリスから報告された研究結果の内容について書いていきたいと思います。

1.心疾患のリスクの高い耐糖能異常(IGT)の成人9,300人以上のデータを40カ国で収集した。
2.1年の間で、一日の歩数が2,000歩増える毎に心疾患のリスクが10%低くなった。
3.その他の肥満度・喫煙・食生活・服薬などの影響を補正しても同様であった。

「単に歩行を増やすという身体活動レベルの変化により、心疾患のリスクを大きく下げることができる」と研究代表者は補足し、開始時の体重や活動レベルにかかわらず多く歩いた分だけベネフィットは現れると述べた。

ここまで読まれて、「運動をしたら良くなるという普通の話では? 何が面白いのかしらん?」と多くの方が思われたことでしょう。

ここで注目してもらいたい所は、「開始時の体重や活動レベルにかかわらず」の所なのです。(研究)開始時の生活習慣は関係なく、その後の運動量変化がリスクを下げるのです。しかも、肥満度・喫煙・食生活・服薬などを補正しても効果がみられているのです。

面白いと思われませんか?

しかしこの研究の論文を取り寄せて読んでみたところ、さらなる驚きが隠されていたのです。続きは次回に!請うご期待!!

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生活習慣と生活習慣病(1)

楽しみにしていたゴールデンウィークも「あっ」という間に過ぎ去りましたが、疲れを残していませんか?胃腸炎や鼻風邪が流行っているようですので、この週末は体調管理に勤しんで病気にやられないようにお気をつけください。

さて、今回のお題は「生活習慣と生活習慣病」についてですが、多くの方が「悪い生活習慣を続けているので病気になるのだ!」と考えておられると思います。本ブログでは以前から、生活習慣病は「体質(遺伝子)と環境のミスマッチ」によって起こると書いてきたのですが、もう一つ上手に伝え切れていないと感じておりました。

そこで最近イギリスから、「前糖尿病状態である耐糖能異常(IGT)の方が一日2000歩余分に歩くだけで心臓発作のリスクが低下する。」との興味ある報告がなされましたので、この話を中心に「生活習慣と生活習慣病」について書いていきたい思います。(久しぶりのシリーズ物ですね。)

最初に基礎知識として、耐糖能異常(IGT)は空腹時血糖は上昇していないが、食後の血糖上昇があり、そのままにしておくと数年後に高い割合で糖尿病に移行するといわれています。また多くの疫学研究の結果から、耐糖能異常(IGT)は糖尿病にならなくても、心血管疾患になる危険(リスク)が高い事が知られています。

全世界では約3億4400万人(成人の8%!?)が耐糖能異常(IGT)であるといわれており、人口増加に伴い2030年までに4億7200万人まで増えると予想されています。

この意味からも今回の研究発表は、我々循環器医にとって大変興味深い物なのです。

次回から、詳しい試験の内容を見ていくと同時に「生活習慣と生活習慣病」についての私見を書きますね。

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新しい高血圧ガイドライン(JSH2014)

新入学の時期だというのに、朝晩の冷え込みはなかなか緩まないですね。今朝も医院に来たら気温が低く、暖房を入れる羽目になりました・・・・・困ったものです。

さて最近、幾人かの患者さんに「血圧の基準が上がりましたね。」と診察中に言われる機会がありました。「JSH2014」の新しい高血圧ガイドラインについて、ニュース報道をご覧になって興味を持たれたのだと思います。ご自身の病気について興味を持っていただけることは、大変ありがたいことです。

ただ、「高血圧の基準値が緩和された」側面ばかりが強調され、「これまでの高血圧の基準が厳しすぎたので、私の高い血圧もそれ程気にしなくても良いよね。」と間違った認識が広がってしまうのが心配です。よくよくガイドラインを読んでみると、血圧の基準値が緩和されたのではなく、血圧の管理基準(降圧目標値)についての変更なのです。

この変更には、当院で「診察室での血圧は参考値」と以前から言って来た考えと同様の「診察室血圧」より「家庭血圧」の重視という考え方が反映されています。「診察室血圧」は報道されたように緩和されましたが、実は基本的な「家庭血圧」の基準値は135/85mmHg以下と全く変化なく、後期高齢者など「家庭血圧」の降圧目標値が緩和されたグループでは必ず「○○○/○○mmHg」(目安)となっています。

つまり、「動脈硬化などの個々人の病態により、降圧目標が大きく変わるため一律に基準値を定めることが出来ませんよ」という意味が「(目安)」に含まれているのです。

ガイドライン自体が本来的に「(目安)」なのですが、ひとたび基準が出来てしまうと一人歩きしだすのは世の常ですね。世の中のスピード感に翻弄され、物事の本質に立ち入らない風潮が混乱にさらなる拍車をかけているような気がします。(困ったものです。)

今回の新しい高血圧ガイドラインの本当の変更点は、「診察室血圧」の降圧目標値は緩和されたものの、「『家庭血圧』を記録しないと高血圧の管理は始まりません。」という内容なのです。(高血圧専門の先生方は厳しいですね。)

皆さんも、この機会に「家庭血圧」を記録してみませんか?

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精密加工技術と健康管理

今日は大阪で初雪が観測されたそうです。11月中に初雪が降るのは24年ぶりのことだそうで、今朝は冷え込むと思ったことも外れではなかったようです。

さて、以前からこのブログでダイエットなどの健康管理に関して書いてきましたが、特に「ポッキーを1日1本余計に食べると10年で5Kg多重が増える!!」などは、なかなか腑に落ちないようです。あなたも「(努力をして)大きく生活習慣を変えないと健康管理は出来ない。」と思っておられませんか?

実は最近、金属で出来た独楽を買ったのですが、これがなかなか良くできていて上手に手で回すと5分以上も回っているのです。精密金属加工の会社が技術力を結集して、作り上げた独楽であり、その精度は100分の1ミリに達するそうです。「そこまで細かく調整するのだから、5分も回っているんだ。」と御納得いただけると思います。

100分の1ミリが独楽の回転に大きな影響を与えるように、生活習慣の小さな改善が健康管理に大きな影響を与えると思われませんか?

このブログを読まれて、

「(努力をして)細かく生活習慣を調整しないと健康管理は出来ない。」

という言葉に御納得いただければ良いのですが・・・・・


睡眠呼吸障害

先日天王寺医師会のスモールミーティングで座長の大任を任されました。講演者の佐田先生とは国立循環器病センター時代に一緒に働いたこともあり、私が選ばれたようなのです。前日から少し緊張気味でしたが、先生方の協力もあり何とかこなせたのではないかと胸を撫で下ろしました。

今回の演題は「循環器疾患と睡眠呼吸障害」でしたが大変分かり易く、今後の診療に生かしていこうと前向きになれる内容でした。

「睡眠呼吸障害」とは聞き慣れない言葉だと思いますが、飛行機や列車での居眠り事件で一躍有名になった「睡眠時無呼吸症候群」と一般的には同じであると考えて、大きな間違いはないと思います。

実は「睡眠時無呼吸症候群」が「循環器疾患のリスク」を押し上げていることが知られています。

高血圧症        1.42〜2.89倍のリスク
狭心症・心筋梗塞   1.2〜6.9倍のリスク
不整脈        1.74〜4.02倍のリスク
大動脈解離      約70%の患者さんに睡眠呼吸障害
糖尿病        2.3倍のリスク

特に大動脈解離は夜間に発症することが多く、「睡眠時無呼吸症候群」が動脈硬化の原因となるばかりでなく大動脈解離発症の引き金になっている(無呼吸で血圧が上昇し大動脈が裂ける)可能性があるとのことです。

また、「睡眠時無呼吸症候群」の方は、治療をしても循環器疾患が治りにくい傾向があるそうです。薬を飲んでも、数値が安定しない方は「睡眠時無呼吸症候群」の関与を疑う必要があるみたいです。

当院では「睡眠時無呼吸症候群」を検査する機器による診断を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

 

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